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【宮城退魔帳 その二】 差し込む朝日で目が覚める。 俺は仮の寝床であるソファーから起き上がりカーテンを開く。外は快晴だ。 腕の怪我ももう違和感が無く痛みも無い。傷口は残るだろうが治癒の異能の効能には驚くばかりだ。 俺達が双葉学園に来てから既に三日が経っていた。 現在、俺と相沢さんは部屋の入居手続きが完了するまでの間、仮の住いとして千晶さんの部屋にお世話になっている。 それ自体は問題ない、むしろありがたいことではあったのだけれども困ったことがあった。 それは、低血圧なのか千晶さんも相沢さんも朝が凄く弱く完全に目が覚めるまで暫くかかること。 現在朝の六時前、日も昇り窓の外からは雀の囀りが聞こえてきている。 「そろそろ、か」 昨日、一昨日と同じなら二人とも6時にアラームをセットしている筈だ。 六時ジャスト、案の定目覚まし時計特有のけたたましい音が鳴り響く。 俺はとりあえずそれをBGMにしながら三人分の朝食を作りにかかった。事前に千晶さんの許可は取ってある。お世話になっているせめてもの恩返しだ。 まず冷蔵庫から紅鮭を取り出しオーブングリルに入れ弱火で少しずつ焼き上げる。 鮭が焼けるまでの間に軽く味噌汁を拵えよう。 先ずは鍋に水を張り昆布を浸す。これは既に昨晩仕込んで置いたから問題ないのでこのまま火にかける。 鍋が煮立つまでの間に器に納豆、菜のお浸し、卵を盛り付けておこう。 グリルののぞき窓から紅がいい具合に焼けていることを確認して火を止める。あとは冷めるのを防ぐため直前までここまま置いておこう。 ある程度鍋が温まってきたら昆布を取り除きすばやく味噌を溶いた。仕上げに豆腐と油揚げを入れて出来上がりだ。 そうして朝食の支度がほぼ終わりかけた頃、二人はのそのそと起きだしてきた。 「おはようござっ…」 俺は反射的に回れ右をしている。 二人の格好はというと寝巻きははだけて下着が露になっていたり上半身裸にTシャツだったりと年頃の男性にとって非常に刺激の強い格好だった。 「二人ともその格好をどうにかして下さい!」 俺は後ろを見たい衝動を理性で捻じ伏せそう叫ぶのが精一杯だった。 二人はその一言でやっと完全に覚醒する。 「「きゃああーーーっ!」」 朝の爽やかな空気の中に悲鳴が木霊した。 「いやー、ゴメンね大声だして」 「慧護さんごめんなさい…」 千晶さんは照れ隠しか笑いながら、相沢さんはしゅんとして謝る。 「いえ、いいですよ事故みたいなものですし」 味噌汁を啜りながら答える。 「それよりも今日の予定は何でしたっけ?」 本当は分かっているが多少強引にでも話を変えてしまいたかった。 「そうね、今日は双葉区内の各施設を回ってもらうわ。そして最後に部屋に案内ね。」 「はい、ありがとうございます」 まだどうにも気まずかった。 「はい、先ずはここ、明日から貴方達の学び舎となる双葉学園の高等部の校舎群よ」 千晶さんが指差しながら説明する。 「各校舎には第六十一~九十までの番号が振られており、各学年ごとに三~四クラスが入っています。」 「はい、千晶先生。質問です。何故六十番からなんですか?」 相沢さんが手を上げて質問する。確かに何故六十番からなのだろう? 「そうね、この学園は小中高大一貫校だから小学校から順に校舎の番号が割り振られているの。小学校は一~三十番。中学校は三十一~六十番という感じにね」 千晶さんは続けていう。 「あと、各学年のクラス数は約50ちょっと。残った校舎は部活棟や特殊教室棟、ラルヴァの襲来によって校舎が破損した場合の予備として割り振られているわ」 「なるほど、メモメモ・・・」 相沢さんがそう言いながらメモ帳に書き込みをする。 「それで、僕達の編入されるクラスは何番校舎ですか?」 「まぁそう急かすな少年。それは今から説明するから。ついてきなさい」 そういって千晶さんは歩みだす。 俺達はそれに続いて歩く。その間道を覚えようと周囲の景色に意識を巡らせていた。 周囲の校舎に打たれた番号が移り変わっていく。八十八、七十三、六十九・・・。 「そしてここが貴方達の学び舎、65番校舎よ」 目の前に立つ何の他の校舎とそう変わりないがこれから世話になることを思うと妙に感慨深い。 「貴方達が編入されるの二年十八組はこの校舎の2階階段上って左側です」 「校舎内は他に目立つような場所は無いのでここまでですね。次は中央アーケード街に行きます。必要品があれば今のうちに買っておくのもいいかもしれないわ」 「はーい」 相沢さんが何故かやたら嬉しそうに返事をしつつ俺達は中央街に向かった。 「何故、こんなことに…」 一人呟く。俺の両手には片側10kg近い荷物がぶら下がっていた。 「それでねーこのお店、安い割りにいいものが多いのよー」 千晶さんがはしゃいでいる。 「そうなんですかー。あっ、これ可愛い!」 「でしょう!それでねこっちのクレープ屋も昔からの定番でねー」 その先は聞き取れない。しかし、女性というのは買い物に関しては異常なまでの情熱を燃やすと聞いたことがあるがこれほどだとは思わなかった。 時計を見る。本来俺達を引率するはずの千晶さんもすっかりはしゃいでしまい本来の時間を大幅に過ぎているはずだった。 楽しんでいる二人には悪いが次に急がなければならない。 「あのー千晶さん」 「はい?」 心なしかその声色には不機嫌な成分が多量に含まれている気がした。 「楽しんでいるところ悪いんですが、そろそろ次に行かないと・・・」 そういって時計を指す。アーケードの中央に設置された大時計はもうすぐ3時を示そうとしていた。 「ああ、もうそんな時間…。えー中央アーケード街の紹介はここまでにして次は本日最後の施設、対ラルヴァ機関ALICEへと向かいます。時間が無いのでダッシュで」 千晶さんは頬に生クリームをつけたまま走り出す。タイトミニの割りにはかなりの早さだ。 「あっふぃあふぃふぁんまっふぇくふぁふぁーい」 まだクレープを頬張っていた相沢さんも食べながら追いかける。 そして俺一人が残された。 「…。俺に一体どうしろと?」 走る事自体は可能だが、間違いなく袋が保たない。 両腕にそれぞれ10kg超の荷物を抱えながら俺は途方に暮れるのだった。 「ぜぇ…ぜぇ……」 あの後荷物の紐が切れないように細心の注意を払いながら可能な限りの速さで追いかけたが結局追いつけなかった。 結局道すがらに人に道を尋ねながらたどり着くことは出来たが、かなり無駄な時間がかかってしまった。 「少年遅かったじゃないか」 その声で施設前の駐車場で待っている二人の姿を見るける。千晶さんの頬にはまだ生クリームが付いたままだった。 しかしなんでこの人は余裕ぶっているのだろうか? 言いたいことは山ほどあるが今はヘバって何も言えない。 「慧護さんごめんね」 相沢さんが朝と同様に申し訳なさそうに謝る。 「おや、相沢さんが悪いわけではないから気にしなくてもいいよ」 「でも…」 まだ申し訳なさそうにしている相沢さんに笑顔を返す。 「えー、ゴホン。お前ら惚気るのはいいがせめて場所を選んでくれ。それ行くぞ」 いつの間にか背後に立っていた千晶さんが少し照れたように言い、早足で施設内部へと入っていった。 「…俺達も行こうか?」 「うん」 お互いに相手の顔を見ずに言う。だって照れた顔なんかあまり見られたくないじゃないか。 「貴方達が双葉学園と共に所属するもう一つの組織がALICE アリス 、Anti Larvae InterCepting Engineです。」 ブリーフィングルームに千晶さんの声が響く。そこにはさっきまでの少しおちゃめな雰囲気は消え、間違いなく教師としてここにいた。 「アリスは双葉学園の創設とほぼ同時期に設立された対ラルヴァ機関で戦闘系の異能を持つ学生・職員によるラルヴァ討伐を目的とされた組織です。」 「システムとしては単純で感知の異能者がラルヴァを検知・報告するか、専用の並列処理コンピュータが全国の警察・緊急回線を傍受してその中からラルヴァであると思われるものがピックアップします。 次にローテーションで待機している異能者に召集がかかり、門 ゲート と呼ばれる転送装置によって各地に送られます。この門は基本片道切符なので帰還は異能によって行われるわ」 千晶さんの説明は続く。 「また、この派遣される異能者は戦闘要員二名と結界要員一名の三名一チームで構成されています」 そこで俺は疑問に思い手を挙げる。 「千晶さん、その結界要員というのはどういうものですか?戦闘要員は呼んで字の如くですからわかるんですけど」 「良い質問ね。宮城君。この結界要員と言うのは一般人から異能やラルヴァを秘匿するための人員なの。その手段は様々だけど本来の異能を使用する者は割と少なく主に根源力を使用した装置が用いられるわ」 「装置、ですか?」 「そう。これらは 超科学 に分類される異能者によって造られた物が殆どでほぼすべてが一品物よ」 そこで千晶さんはテーブルに手を置きこちらを向く。 「今日のところは小難しい説明はこのくらいにしておきましょう。残りに関しては簡単な資料が配布されていますから後ほどそれを参照してね。」 千晶さんが資料の束を閉じ、プロジェクターの電源を切る。 「さて、今日のところはこれでおしまい!あとは帰るだけ!その前に」 千晶さんはお腹を押さえる仕草をする。 「お腹減ったしご飯でも食べに行こっか!」 時計を見る。時刻は既に6時を回っていた。 「ヘイラッシャイ!」 屋台から威勢の良い声が響く。屋台の看板には大車輪とある。 「おっちゃん久しぶり。元気してた?」 千晶さんは屋台の大将と思われるおじさんに気軽に話しかける。 「おや千晶ちゃんじゃねぇか!ちょっと見ないうちに一層美人に磨きがかかってたんで気づかなかったぞ!」 「やぁね、おっちゃんったら相変わらず調子良いんだから」 千晶さんが少し照れるように返した。 「ところでその後ろのお二人のお連れさんは?」 「この子達は明日からこの学園に編入されるの。今日は学内の案内をね」 「なるほどねぇ。カップルで編入って訳かい!」 大将がカカと笑いながらこちらを見る。 「そっ…、そんなんじゃありません!」 相沢さんが大声をあげて否定する。事実だけどなんかショックだ。 「おっちゃんあまり若い子をいじるのはよしなよ」 千晶さんがちょっと嗜めるように言う。 「ガハハハ、スマン。このくらいの可愛い子をみるとついな。お詫びに杏仁奢るから許してくれな?お嬢ちゃん」 「そういうことなら…」 相沢さんはまだ少しムスっとしながらそう返す。 「さて、一区切り着いたし何を注文するかい?」 こうして夕食の時間は賑やかに過ぎていった。 夕飯を食べ終え三人で帰宅の路に着く。 「良い店だったでしょ?」 千晶さんが聞いてくる。 「えぇ、量も多いし味も良かったし親父さんも味のある良い人でした」 「ちょっと意地悪でしたけどね。でもあの杏仁豆腐はすごくおいしかったです!」 俺達はそれぞれ答えを返す。 「でしょう?あの店は私がまだ生徒だった頃からあのまんまでね?」 千晶さんがそう話しているとき、俺達に支給されたPDAが一斉に鳴り出した。 「一体何が」 俺達はPDAを開いて内容を確認する。そこにはこうあった。 「緊急・ラルヴァ出現警報。師走地区四丁目にてカテゴリービースト・スレッジハマーの出現を検知。近隣の生徒・職員は次に指示する経路どおりに非難をお願いします。」 「スレッジ…ハマー…?」 千晶さんが呟く。心配になり顔を覗き込むと、その表情はどんどん蒼くなってゆく。その目は焦点を見失っている。 その時、少し先の道から全高五メートル程の黒い影が出現する。近くの電柱を見る。ここは師走地区四丁目だった。 「千晶さん、しっかりして下さい!」 そう呼びかけるも千晶さんは全く反応せず地面にへたり込んでしまっていた。 黒い影はまるで怪獣映画のような効果音を伴いながら、少しずつこちらに接近してきていた。ラルヴァの歩みは遅いがこのままでは逃げ切れない。 「相沢さん、千晶さんを連れて避難してくれ!」 両手の荷物はこの際諦めるしかあるまい。運がよければ後で回収しに来よう。 「分かった!でも慧護さんは?」 「俺はヤツに向かって時間稼ぎをする!なに、この学園には他にも異能者が多く居るはずだからそれまでの間さ、大丈夫だ」 俺は相沢さんにサムズアップを返す。 「うん…。慧護さん、無事でね…」 「ああ、大丈夫だ」 俺はもう一度、相沢さんに向かって笑顔を向けたあと、近くの電柱脇に荷物を置くとラルヴァに向かって走っていった。 そのラルヴァは巨大だった。羆のような体つきに異常に発達した腕を持ち、体格は羆より二周り以上大きく五メートル以上の体高を誇っていた。 「あの腕がスレッジハマー 大槌 と呼ばれる所以か・・・」 俺はそう独り言、ラルヴァと対峙する。 そして、俺が奴の間合いに入った瞬間、その体格からは想像出来ないほど俊敏な一撃が振り下ろされた。 他の異能者が来るまでの間、それだけの間保てば良い。そう思っていたが楽観視が過ぎただろうか? 巨躯から繰り出される攻撃は無慈悲なほど強力で、その間隙も絶え間ない。 その一撃を躱すごとにアスファルトの道路が砕け陥没し、飛礫が膚を叩いて少しずつ、だが確実にダメージが蓄積してゆく。 半日間両腕に大荷物を持って移動したり、食事直後に急激な運動をしたこともあり予想以上に体力の消耗が早い。 「これはこの場で躱し続けるよりどこか広い場所に誘導した方が良いか…?」 そう考えながらも体力はジリジリと消耗してゆく。あまり考える時間は無い。 俺はタイミングを図り一気にラルヴァとの間合いを詰める。崩壊した道路に蹴躓きそうになりながら。 しかし、ここに来てスレッジハマーは今まで縦に振り下ろしていた腕を、横に薙いだ。 慧護さんが巨獣に向かって走ってゆく。心配だけど今は慧護さんを信じるしかない。 千晶さんは未だ込んだままだ。その目は虚ろで現実に焦点が合っていない様に見えた。 早く避難しないと慧護さんが命を張ってまで時間稼ぎをしてくれている意味が無くなってしまう!そう思い私はいきなりだが多少強引な手を使うことにした。 千晶さんの頬を数度、軽く平手で張りその瞳を覗き込む。 「千晶さん、聞こえますか?」 段々とその瞳に光が戻り、焦点がこちらに合っていくのが分かる。 「相…沢……さん?」 「そうです。今の状況が分かりますか?」 「えぇ…、ラルヴァが出て、それで私・・・」 半ばうわ言のように呟く。 「そうです。だから、今は避難しましょう」 そう言いながら私は千晶さんを立たせる。 「慧護さん、死なないで…」 私はそう呟き、千晶さんと一緒に避難を開始した。 「危なかった…」 まさに間一髪だった。とっさにヘッドスライディングの様に頭からダイブしてなければあの豪腕の餌食になっていただろう。 なにはともあれ奴の背後の回ることが出来た。後は思い通りの場所まで誘導できるかどうかだ。 さっきPDAに映し出された避難経路図が確かならば、この先は広場になっている筈だ。 振り返り、再びこちらを狙い始めたラルヴァに対し、俺は奴の間合いギリギリを保ちながらおびき寄せていった。 「打撃力が足りないな…」 集合場所に集まった面子を見て俺は俺はため息を吐く。 アリスから緊急の召集を受けて即応できたのは俺達三人、内一人は連絡手段しか持たないテレパスだ。 「そんなことは無いだろう、田中」 この暑い季節にコートを羽織った眼鏡の男が返す。 「相手は過去十数年に何人もの人を殺害した凶悪なラルヴァだ。油断するとお前も犠牲者リストの仲間入りを果たすことになるぞ、鷹津」 俺はそう鷹津尚吾 たかつしょうご に返す。 「いや、俺そこまで近づかないから。近接戦闘はあんたの性分でしょう」 そう言いながら鷹津はコートを叩く。 「ところで橋本、ラルヴァの動きはどうだ?」 俺はPDAで情報を収集していた橋本恵 はしもとけい に話しかける。 「はい、目標は師走地区四丁目に出現した後暫くその場に停滞して道路を破壊、その後急に進路を変え現在こちらに向かっています。」 俺はしかめ面をしながら考える。 「不可解だな…」 目標の動きもそうだがここまで被害が少なすぎる。 「あ、追加情報が入りました。目標の至近に学園生徒のGPS反応捕捉しました。どうやら誰かが交戦しているみたいです。」 橋本はこんな時でも淡々としたペースに変わりが無い。 「鷹津、狙撃位置についてくれ。ここで迎え撃つ。橋本はその生徒にテレパスでコンタクトを取ってくれ。俺は橋本を安全圏まで連れて行ってからまたここに戻る」 そう言いながら俺は橋本を抱きかかえる。こいつのテレパスは精度は高いが集中力を要し、その間一切の行動が取れないのが欠点だった。 「即、行動に移ろう。解散!」 容赦ないラルヴァの猛攻をかわし続ける。広場入り口まであと数十メートル。 そこで不意に脳内に声が響いてきた。 「CQ、CQ。ラルヴァと交戦している貴方、聞こえますか?こちらアリスの者です。返信はイメージで十分です」 やっと待ち望んだ者が来た。そう思いながら俺は返事をする。 「聞こえる。今ラルヴァを広場らしき場所におびき寄せている。あと、こちらは攻撃手段を持っていない」 「わかりました。そちらの位置はこちらでも捕捉しています。広場にこちらの異能者が二人待機しています。それまで持ちこたえてください。」 あくまでその口調は静かで淡々としている。 こっちの体力もそろそろ限界に近づいてきている。あと二十メートル。 続く二撃を躱してあと十メートル。 「十分です。後はこちらで引き受けます。隙を作りますので離脱して下さい」 また声が響く。 返事をする余裕はもう無い。 0メートル。広場に到着する。それと同時に花火の様な爆発音が響き、奴はたたらを踏む。 俺はこの隙を逃さず残った気力と体力を振り絞りラルヴァに背を向けて全力で走り出す。。 広場の中央を通り過ぎ男とすれ違う。 「お疲れさん。後は任せろ。その先の茂みにさっきのテレパスがいるからそこに駆け込め」 その男はすれ違いざまにそういう。俺はその男の言われるまま茂みに突っ込んだ。 「さて、やるかね」 俺は首を回しながら標的と相対する。獲物を取り逃がしたラルヴァはその瞳に怒りを湛えながらこちらを睨む。 そんな奴に大して俺は微笑みながらこう返した。 「おいおいそんなに見つめるなよ。照れるだろ?もしかして俺の肉体美に惚れたか?でもな、…」 その先の言葉は不要だった。奴は怒りに任せてその名の所以たる両腕を振りかざす。 俺はその攻撃を避けもせずただ見ていた。 再び発砲音が響き、大槌は空しく空を切るばかりだった。 「次はこちらから行かせて貰うぞ」 俺はそう宣言した後、目標に肉薄その脚に正拳を叩き込む。が効果は殆ど無かった。 「堅ぇなこいつ…。鷹津、AP弾を使ってくれ!」 俺は学生証に内臓された通信機能で鷹津を呼び出す。 「もう使ってる。しかし全弾ほぼ表層で止めらた。SVD ドラグノフ じゃ駄目だ。AMR 対物狙撃銃 でも無いと貫けん。」 俺は舌打ちしながらその返答を聞いている。 「やはり火力が足りなかったか…。そのまま狙撃を続けてくれ」 打撃力が足りなくても何とかしなければならない。被害を拡大させるわけには…。しかし今からだと応援も間に合わない。 「田中、お前の全力でアレと力比べして何秒あいつの動きを止めれそうだ?」 「頑張っても二十秒ってところだろうな」 俺は攻撃を躱しながらそう返す。 「…三十秒、頼む」 「わかった。トチるなよ」 俺は自身の異能・筋力増加 マッスル・ブースター を限界まで作用させ、ラルヴァの豪腕を受け止める。 恐ろしいまでの衝撃と共に脚が地面にめりこみ、全身が悲鳴をあげる。 「鷹津、後は任せた」 田中が目標の一撃を受け止め膠着状態に入る。 俺はそれを見ながら愛銃を構える。残り二十秒。 狙うは奴の眼球、およそ四センチ四方。銃身は既に熱を持って精度を失いかけている。失敗は許されかった。 スコープを覗きながらおおよその照準を合わせる。残り十秒。 残りを経験と勘で狙いを絞りトリガーを引いた。 俺は茂みから息を整えてその戦いの結末を見ていた。 巨獣の目から血が迸り、咆哮をあげる。そして徐々ににその輪郭薄めてゆく。 「逃げられてしまいましたが相手が相手ですし、撃退できただけでも上々の結果ですね」 隣にいた女性が声をかける。あのテレパスの人だった。橋本というらしい。 「あれで仕留められなかったんですか?」 俺は橋本さん訊いている。 「ええ、通常ラルヴァを退治すると幽霊の様に消えるのではなく灰となって消えてゆくのです。ラルヴァについては基本的な知識の筈なのですが…」 そこで言い難そうに言葉を切る。 「いえ、気にしないで下さい。俺、まだここに来て三日目で学園にも明日から編入なんで何も知らないも同然なんです」 「そうでしたか」 彼女は俺の答えに納得したように頷く。 「橋本とそこのアンタ、ちょっとこっちに来てくれ!」 先ほどすれ違い、ラルヴァと戦っていた男が呼んでいる。 「どうしました?田中さん」 俺と橋本さんは田中と呼ばれた彼に向かって歩いてゆく。 「あれ?鷹津さんはどうしましたか?」 「あいつはするべきことはしたし後は帰って寝るってさ」 「あの人らしいですねぇ」 「っとスマン。紹介がまだだったな。俺は大学部三年、アリス所属の田中敦 たなかあつし だ」 大柄で筋肉質の彼が手を差し出す。 「明日から高等部二年に編入予定の宮城慧護 みやしろけいご です。アリスにも所属予定です」 そう言いながら俺は差し出された手を握り返す。 「そうか、これからよろしくな。ところでこの鞄、さっきのラルヴァが消え去り際に落としていったんだがお前のか?」 そういって田中さんは白い鞄を突き出してくる。 「いいえ、違います。誰のなんでしょう?」 俺はそう返す。 「よく見ると一部に血痕みたいなものが付着してますね。もしかしたら過去の犠牲者のものなのかも知れません」 と橋本さんが鞄の底に近い部分を指差しながら言う。 「本当だな…、ちょっと持ち主には悪いが中を確認させてもらうか…」 そう言いながら田中さんは鞄の中の物を出そうとする。 「ちょっと待って下さい。さすがにここであける訳にもいかないでしょう。一旦本部に現状を報告してからにしましょう。向こうにはデータバンクに直結している端末もありますしその方がいろいろ良いでしょう」 そう橋本さんが提案する。 「そうだな…。じゃあ本部に報告頼む」 「わかりました」 橋本さんはPDAを通話モードに切り替え、報告を始めた。 それから三十分後、俺達はアリス本部施設内のブリーフィングルームに居た。 相沢さんたちには既に無事を伝え、事の次第をかいつまみ説明したあとそのまま解散することにした。 アパートの地番は受け取っているから多分大丈夫だろう。 そして、田中さんは机の上に鞄の内容物を一つ一つ慎重に取り出してゆく。 「これは…、生徒手帳兼学生証?」 俺は現在においてもオーソドックスなタイプの手帳を指す。 「みたいですね。ですがここは十年程前から現在の形の電子証を導入していますからこれはそれ以前のものでしょうか?」 田中さんが手帳を手に取り中を見る。 「持ち主の名前は岩田圭介、2007年当時で高等部一年だったみたいだな。橋本、この情報を元にデータバンクに検索を掛けられるか?」 「やってみます」 既に橋本さんは端末を弄っている。 「出ました。岩田圭介…十二年前にあのラルヴァ スレッジハマー と遭遇、殺害されています…」 俺達はただ、黙祷し彼の冥福を祈ることしか出来なかった。 私は薄暗い部屋の中、ベッドの上で足を抱えている。 もう十二年も前の事なのに未だ脳裏に焼き付いて消えない惨劇。 「もう、吹っ切れたと思ってたのになぁ…。圭介・・・苦しいよ」 その言葉は誰にも受け取られることはなく、ただ虚空に散っていった。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む その部屋は、機械音と水泡音に包まれた異質な空間だった。 天井、床、壁を無尽に埋め尽くすコードとパイプ。 脈打つすれはまるで生物の血管のよう。そして突き立ついくつもの巨大な培養槽は内臓か。 その中は溶液と水泡で満たされ、中に何があるのかは一目では判らない。 そんな密閉された中に、二人の人物がいた。 一人は、少年か。 白衣に眼鏡の長身の男。 そして机を挟んで彼に相対しているのは、少女。 後ろ髪を短く刈った、小柄な少女。彼女の視線は眼前の男ではなく、机の上に置かれた一冊の本に釘付けになっている。 革表紙に金の飾り文字の、古い本だ。 一般的にはあまり見られない、一筆書きの六芒星と不思議な象形文字が表紙に飾られている。 それは見る者が見れば、何を示しているかは判るだろう。 即ち、獣の六芒星と薔薇十字団の魔術文字である。 アレイスター・クロウリーの記したと言われるその星の下に刻まれている文字を英語に直すなら……こう読めるだろう。 【MOON CHILD】 月の子――そう、確かに記されている。 「この本で……」 少女は震える声で言う。そこに含まれている響きは、畏れか、憧憬か。あるいはその両方だろうか。 「そう、その通りです」 対して、男は誇るように言う。 「それで君の願いが叶う……判りますね? 君は生まれてきたことが罪、生まれてこなければよかったと言いましたが……それは違う。 罪を犯さなければ、償うことすら出来はしないのだから。 そして君は今此処に、償いの術を得た。あとは君の意思ひとつ……判りますね?」 「なら私は……」 本を手に取る。そして、ぎゅっ……と力を込めて胸に抱き寄せた。 「……私は!」 その声に、男は笑う。亀裂のような、あるいは三日月のような笑みを浮かべて。 「宜しい。 では聖誕祭の準備と行きましょう。君の手にした書と私の錬金術があればそれは叶う。 いざ始めよう、偉大なる――月の子の誕生を」 ごぼり、と。 培養槽の中で巨大な水泡が、その言葉に答えるかのように弾けた。 MOON CHILD 「え? なんだって、俺一人で仕事しろ? 何言ってんだくされ教師が! それでもてめぇ先生かよ!」 木々の緑がさわやかな風に揺れる中、携帯電話に向かって怒鳴る少年がいた。その大声に小鳥たちがあわてて飛び立つが少年はそれどころではなく続ける。 「俺はサポートのはずだろうが! 先輩たちは!? は? 急に他の仕事で……海だぁ!? つーかなんで電話の向こうで楽しげな声聞こえてんだ! バカンスとかじゃねぇだろうなおい! ……黙るな! もしかして最初からそのつもりかよあんたっ!?」 叫ぶ少年に、周囲を行きかう人々も奇異の目を向けるが、やはり彼はそれに気づいていないのか、それとも気にしていないのか声を上げ続ける。 「もしもし? もしもーーし! ……切りやがった、しかも着信拒否かよ!」 携帯電話を握り砕く勢いで少年は叫ぶ。 「……っ」 乱暴にポケットに携帯電話を入れ、そしてため息をひとつつく。 「……はあ。しゃーない、やるしかねぇか……」 そう言って、少年は坂道を登り始めた。その道が続く先には、ミッション系スクールの大きな校舎が見えていた。 少年の名は久崎竜朱(くが・りゅうじゅ)。 双葉学園に通う生徒である。だが、ここは双葉ではない。北陸地方の内陸部である。何故彼がそんなところにいるのか。 「……くそ、こんなことならバックレればよかった、補習」 そう、補習である。試験をさぼり赤点をとってしまい、教師に呼び出された。そして補習とばかりにラルヴァ退治のチームに組み込まれる事になったのだが…… 「押し付けかよ、聞いてねえぞ……」 木々を掻き分けながら竜朱は愚痴る。 いつもそうだった。あの教師は事有るごとに何もかもを押し付ける。自分が楽をするためならば手段を選ばない人間だった。 その裏でどれだけ自分が貧乏くじを引かされてきたかは思い出すだけで腹が立つ。 「とっとと終わらせて帰るか……」 そうつぶやきながら足を進める。 「まあ、ついた早々にラルヴァとかちあうなんてことは……」 そう言った瞬間。 「ひぃやぁあああああっ!」 女の子の悲鳴が竜朱の耳に届いたのだった。 「お約束だなオイ!」 木々を掻き分けて走る。開けたその場は、森に囲まれた閑静な広場だった。 そして修道服姿の女の子が倒れている。意識はあるようだが、腰が抜けたのか、上半身を起こして怯えながらそれらを見ている。そしてそのさらに後方には眼鏡をかけた男子生徒が倒れていた。 (ラルヴァか?) 竜朱が見たのは、二匹の獣だった。 くすんだ灰色の体毛をした、半透明の大型の獣。それが常軌を逸した赤い目を輝かせ、今にも獲物に襲い掛かろうとしていた。 「ちっ!」 すかさず竜朱は躍り出、女の子の前に立つ。 「GRUREAAA!」 獣が吼え、竜朱に襲い掛かる。だが竜朱はその繰り出される爪を最小の動きで避わす。 頬の皮が裂け、血の飛沫が飛ぶ。だがそれだけ。そして竜朱はその両手で二体の獣の顔面を掴んでいた。 (人狼……いや違うな、狼型人工精霊(エレメンタリィ)か) 竜朱はその正体を看破する。 魂源力によって組み上げられた擬似霊魂体。古くはこの国では式神や式鬼と呼ばれた、魔術・呪術によって作られる人造のラルヴァだ。 (命令を受け行動している……訳ではないな、暴走している。なら仕方ない) そして竜朱は、その腕に力を込める。 思う。ただ思う。その意思はコマンドとなり、人工精霊たちに強制的に命令を下す。すなわち―― 「砕けろ!」 魂源力を送り込む。意思によって組み上げられた擬似霊魂体を、より破壊的で傲慢なひとつの意思が塗り替える。 ただ一言の暴圧的な意思を送り込まれた狼たちは、悲鳴を上げながらのた打ち回り、そして紫電を上げながら――崩壊した。 「今見たことは忘れろ。とるにたらない、どこにでもある心霊現象だ」 竜朱は少女を見下ろしながら言う。 「どうせ他人に話しても馬鹿にされるだけで……」 しかし竜朱の言葉は最後まで続かない。 「かっこ、い――――――――――――っ!!」 そう少女は叫び、飛びつく。その体当たりに竜朱は思わずたたらを踏む。 「お、お前腰抜けてたんじゃなかったのか?!」 「やだもう、腰がどうのなんて破廉恥えっちーぃ!」 「破廉恥なのはお前の思考だ!」 「ていうか今の何ですか、こう掴んで光ったらずばーんっ、て!」 「人の話を聞け!」 「私ですか私は西宮浅葱(さいぐうあさぎ)っていいます!」 「聞いてねえ!」 二重の意味で聞いていなかった。 数分後。 竜朱は浅葱と名乗る少女を落ち着けさせ、倒れていた男子生徒も起こしていた。 本当はとっとと去りたかったのだが、浅葱がそうさせてくれそうになかったから仕方なく、である。 「つーかナベっち、ひ弱っ」 浅葱は男子生徒に向かって言う。 「ナベっちではなく田辺ですって。というかですね、あ、あんな化け物をやつつけられるほうがおかしいんです! ……あなた、何者ですか」 田辺は眼鏡を指で持ち上げながら、猜疑心を丸出しにして問いただしてくる。 ……これだからとっとと去りたかったのだが、と竜朱は思うが後の祭りだ。これが、双葉学園の外の一般的な普通の人間の対応である。それは仕方ないしそれに対していちいち傷つくような繊細な心は持ち合わせていない。ただ、後々面倒になりかねんと煩わしいだけだ。 「さあな。どこにでもいる魔法使い、って所だ」 だからあえて適当にはぐらかす。 「ふん、怪しいですね。そもそも魔法使いなんていうものは、現実と妄想の区別が付かない愚か者か、あるいは子供を騙す詐欺師かのどちらかで……」 「じゃあ私騙されたいでーすっ! むしろ騙してっ!!」 そして浅葱が、その一触即発の空気をぶち壊す。 「……」 「……」 竜朱と田辺はそろってため息をついた。 「……まあいい。ところで校長室はどっちか、教えてくれないか?」 頭をぼりぼりと掻きながら、竜朱はそう言った。 校長室は、普通の校長室だった。ミッション系スクールといっても、どこからどこまでも教会チック、というのではないようである。精々が十字架や聖母像を飾っている程度だ。 だがその聖母像に竜朱は気づく。 「……黒い聖母。この学園は隠れて女神信仰を教義にしてるのか?」 黒い聖母。そう書くと不吉な響きを持つが、何の事は無い異教の女神、イシスやアテネなどをマリア像としてカモフラージュしたものだ。古い秘教信仰は、そうやって現在も生き続けている。 その竜朱の言葉に、校長は笑う。 「いや、あくまで私や、数名の私の同胞だけだよ。そうだろう、兄弟(フラター)」 「……」 その言葉に竜朱は頭を掻く。 「くそ、先生の同類かよ」 「同胞、と言い換えて欲しいね。彼女は元気かね」 「元気も元気だよ。今頃は仕事を俺に押し付けて海でバカンスのまっ最中だとよ」 「それはなにより」 「皮肉だよ! ああくそそーいうの通じないところまで同類か!」 竜朱は深呼吸をひとつし、気を切り替える。 「……やってきていきなりあれかよ。大丈夫なのか」 竜朱は人工精霊の件について話す。 「なに、閉鎖された教会やミッション系スクールではよくある集団ヒステリーだ。」 校長は笑顔で言った。 古くより、閉鎖された教会などではよく修道士や修道女が「悪魔」を視、騒霊現象が多発するという。それは集団ヒステリーによる共有幻想である、と心理学などで説明されている。 抑圧された心理による共有された妄想、その影響下ではどのような幻覚を見たとしても不思議ではない……そういう理屈だ。 そう、表向きは。たとえそこにどのような異能やラルヴァがかかわっていようと、表の世界ではそういう「もっともらしい理屈」で説明づけられるのだ。 「……それで済めばいいんだがな。で? 俺たちが呼ばれたのはあれの退治のため……じゃないんだろ?」 「ああ」 「だよな。あれは魔術で編まれたものだ。暴走か何か知らないが、あの程度ならあんたらでもどうとでも出来るはずだろう」 「いや無理だ」 「無理なのかよ!?」 あっさりと言う校長だった。 「私たちは荒事に向かないのだよ」 「威張るな威張るな……」 「まあ話を戻そうか。今回、我らが双葉学園に依頼をしたのは、だ。我々の学園で起きたとある事件……といってもそこまで表ざたになってはいないのだが、その事件にラルヴァが関わっている疑いがあるのでね」 「疑い、かよ……」 「君子危うきに近寄らずだよ。正直、私たちは一般人に毛の生えた程度の力も無いからね。視て、感じて、学べる程度だ」 「嘘吐け」 竜朱はあっさりとその言葉を否定する。 「……まあいい。それでその事件というのは、だね。魔術書の紛し……盗難事件だ」 「今紛失とか言わなかったか?」 「気のせいだ。君の聞き違いだ。図書室に秘蔵してあった魔術書のひとつが何者かによって奪われたのでね。この学園から持ち去られていない事はわかるのだが……」 「だったら生徒が間違えて迷い込んで普通に持って帰っただけじゃないのか? それなら問題ないだろ、魔術書なんて暗号化されてて普通の人間にはあやしげな本以上のものじゃない。寓意化や比喩、そしてカバラ暗号術の文字置換法(テムラー)、数秘法(ゲマトリア)、省略法(ノタリコン)によって隠された秘術を学生程度に解き明かせるとは……」 「そうだな。だがそもそもその図書館自体に幾重もの結界が張ってあった。間違えて迷う込むことは無い、意図して進入しない限りは。つまり……」 「なるほど。資格は十分、悪用するつもり満々、ってことか」 「配置しておいた人工精霊も見事に破壊されていた。あるいは君が始末してくれたように、暴走させられた。そうなるともう、私らは荒事に向いていないのでね」 「……わかった。そういうことなら引き受けるしかないな、俺にしか出来ないことだ」 そうため息ひとつ、校長室から出て行く竜朱。 それを見届けた後、校長は電話をかける。しばらくして、相手が電話を取る。 「――ああ、私だ。 君の言ったとおりだよ。嗅ぎ付けて動いたようだ、迅速に済ませねばならんね。 彼をどうするか……か。それは私の権限ではないよ。君に一任する。最初からその手はずだろう? 勘違いしてはいけない、私には権限などない。ただお願いするだけだ。ああ、よろしく頼む。 計画は……」 そして同時刻。 浅葱と別れた田辺もまた、携帯電話を手にしていた。 「ええ、計画は前倒しに。 邪魔される訳にはいきませんからね、これは我々の悲願ですから。 月の子の誕生は――目前です」 そう言って、田辺は笑った。 「さて……どうするか」 竜朱は校舎内を散策する。 今日は休日だ。一応、校長からここの制服を借りたので自由には動けるが、しかしなるべくなら早く済ませたい。 そのとき、見覚えのある人影を見かける。修道服姿ではないが…… 「お、えーと、浅葱だっけ」 竜朱は声をかける。だが振り向いたその少女は、何かが違っていた。雰囲気というか、何かが。 「あ、いえ違います。妹の浅葱です。ええと……竜朱さんでしたよね? お姉ちゃんから聞いてます」 「……妹さんなのか。さっき道案内してもらったからついでにまた頼みたいと思ったんだが……」 「じゃあ私が代わりに……私でよければ、ですが」 「頼む。ここの図書室がでかいと聞いたから」 「はい」 数分後。 図書室に案内された竜朱は、萌葱に霊を言うと奥へと踏み入った。 (この匂い……香を微かに炊いている。それに響く音楽、そしてこの色彩の使い方……なるほど、認識をずらすカモフラージュか) 竜朱は異変に気づく。これは魔術的に偽装されたものだ。校長が言っていた結界の一部だろう。 それを踏み越え、竜朱は目的の場所へと着く。 古臭い本が並べられている部屋。 その本棚を慎重にチェックする。 「奪われた書は……ここか。GD系の……クロウリー著作の魔術書……また癖のつよい所を……」 竜朱はため息をつく。アレイスター・クロウリー。熱狂的信者と同時に仇敵を多く作ったその魔術師の残した魔術は、今も人を惹き付ける。特に黒魔術的な危ういモノを好むものたちに。 そう言いながら本をチェックしていると、並ぶ本の上に置かれていた本が手に当たり、落ちる。 「……と、落としちまった」 竜朱はそれを拾う。題名には、人工精霊トゥルパ創生の書、と書かれていた。それを本棚に戻し、そして探し始める。 「あった、この位置だ。ここにあった本は……」 本棚に記されているラベルを竜朱は読み上げる。 「……ムーンチャイルド」 夜。竜朱は校長に割り当てられた部屋に泊まっていた。 机の上にメモや書類をぶちまけて熟考する。 「昼間調べたことをまとめてみようと思ったが――よくわからん。 ムーンチャイルド……20世紀最大にして最悪の魔術師と呼ばれたアレイスター・クロウリーの考案した魔術。あれがここで行われている? バカな。ここは学園だ…… 妊婦の胎児に魂が宿る前に陣を敷き、惑星霊や天使を降ろして超人を作るというホムンクルス創造の大儀式に、未成年ばかりが集まる学校ほど似合わない場所も無い。双葉学園のような学園都市なら別だが……ここは小さく狭すぎる。 いや発想を変えるか? だからこそ、子供の火遊びの始末をした後の胎児を調達するために……いやそれもどうだ。よくある低俗な黒魔術と違い、母体ごと新鮮で元気な子供が必要だ、下ろした胎児の死体じゃ意味が無い」 竜朱は昼間のうちに聞き込みなどで調べた資料を机に並べて睨む。 「そもそもここはミッション系だ、そういう噂は調べた限りでは無い。抑圧されているからこそ水面下で、というパターンもあるだろうが……逆にそういう堕胎の手段があるならば水面下でこそ噂になって、容易に調べがつくはずだ」 人の口に戸は立てられぬと言う。後ろめたさと、そしてそれを都合よく救ってくれる希望、それが都市伝説や噂話を作り上げる。だが、そういうものは竜朱の調べた限りは無かった。 (噂……か。噂といえばもうひとつ――) 竜朱は思い出す。あの姉妹の噂も耳に入った。 (浅葱、萌葱の姉妹。仲が悪いのではないか、二人一緒にいる所を見たことが無い――という話を聞いた) 朝、自分を校長室に案内してくれた少女、そして図書室へと案内してくれた少女。双子の姉妹。 (取るに足らない他人の家庭の事情、それだけのはずが何か引っかかる……確かに俺も二人一緒に見てはいないが。 だが妹のほうの言動からは仲の悪さは感じられなかった。一緒にいる姿を見ないほどに仲の悪い姉妹が、案内しただけの男の事を話題にするか? ……考えにくい。 だがそれならば何故、二人一緒にいない。いれない理由でもあるのか?) そこまで考えて、竜朱は頭を振る。 「くそ、考えが横にそれる。今はムーンチャイルドの事だ」 頭をがしがしと掻き、背を伸ばす。 「……情報が足りないな。一日じゃ無理だ。休日の今日に片付けておきたかったが……となると明日か。明日は月曜、生徒も増える。そこで改めて……か。 仕方ないな。寝る前に散歩しておくか」 竜朱は月光の下、静謐な夜の空気を胸いっぱいに吸う。 男子寮の中庭は静かだった。 「……流石はミッション系、ってところか」 周囲は森林に囲まれ隔絶されている。ここは一種の異界だ。校長が魔術師でありどこぞの結社に絡んでいる以上は納得も出来るが、それにしても静かで、空気も澄み、まるで妖精郷を思い起こさせる。もっとも、陽光の下で花畑の中に妖精が舞う世界ではなく、むしろ森の闇の中の、恐怖と安寧が背中合わせの静寂の世界だ。 「……?」 ふと。 竜朱の目に何かが留まった。 「魂源力の残滓……?」 周囲を見回す。そう、ここは今朝、竜朱が人工精霊を破壊した場所だった。 「残骸か……いや、違う」 目を凝らす。 そこに。微かな、糸のようなモノが視えた。 「完全に潰したと思って考えにも入れてなかったが……そうか、犯人によって操られていたと言うのなら、繋がってる糸が……そこをたどれば」 完全に灯台下暗しだった。だが後悔も悔恨も竜朱の主義ではない。 竜朱は注意深くそれを辿っていく。森へと入り、木々を掻き分けていくと、開けた場所に出る。そこには小さな洋館があった。 「……怪しいな」 そう言って、竜朱は無造作に扉を開ける。錆びた蝶番が軋んだ音を立てる。 「……地下秘密基地、か。おあつらえむけの、いかにも……だな」 そして竜朱は、地下への階段を下りていった。 黴のすえた臭いと鉄錆、そして腐臭が混ざった空気が竜朱の鼻を刺激する。 「……嫌な空気だな。それに……魂源力の気配が濃密でこれ以上は」 糸を追う事は出来そうにない。だがここまでくればこの先に何かあるのはもはや決まりだ。 あとはその前に…… 「おい」 竜朱は声をかける。背後に。 「尾行ならもっと上手にやれ。足音を消せていない息も殺せていない、見つけてくれといってるようなものだ」 その竜朱の声に、 「すっごーい、やっばりこうなんというか、野生の勘ってやつですか!?」 「静かにしろバカ!」 西宮浅葱が大声で感嘆した。竜朱はあわてて手で浅葱の口をふさぐ。 「……口を塞ぐなら、男の人らしく唇で塞ぐのもアリと思うんですけど」 「このまま息の根止めるぞコラ」 半分本気で竜朱は言った。 「……というか何でお前はここに」 「いや、寝付けないので散歩してたら、おにーさんがなんか神妙なツラしてるからついつい気になって……これって恋?」 「変だ」 「ひどっ!? 漢字にすると似てるけど口に出すと一言も合ってねぇ!?」 大げさに嘆く浅葱を軽くスルーしておく。 「しかしなんかこんな所あるなんてすげーですよね!」 「そうだな」 「これはすげーですよー……地下になにがあるのか! はっ、もしかしておにーさんはそれを調べるためにやって来た秘密のシークレットなスパイとか!」 「違う。あと秘密とシークレットで重複してるぞ」 竜朱は苦笑し、言う。 「まったく、お前は本当に騒がしいな、萌葱(・・)」 「はえ? やだなー、私は萌葱ちゃんじゃなくて……」 「いや、合ってるよ。西宮萌葱」 その静かな言葉に、少女は止まる。 ただ無言。その沈黙が何より雄弁に語っていた。竜朱の言葉は正しい、と。そして竜朱は続ける。 「ああ。普通の学生である西宮萌葱、そして教会のシスターである西宮浅葱……同一人物だったとはな。 なるほどその設定なら……二人一緒に姿を見ない事への理由はつけられる。 そんな手の込んだことをしている理由は知らないが、演技は実に上手かった。いや、違うな。上手すぎたんだ」 「?」 「そう、お前は上手すぎたんだよ。まるで本当に、もう一人の人格として「西宮浅葱」を作っているかのように。俺が感じた妙な違和感、気にかかった理由はそれだ」 「……そう言ってくれると嬉しいです。私の中におねえちゃんが生きている、ってことですね、それ」 口調を先ほどまでの明るく喧しい「浅葱」から「萌葱」へと戻し、萌葱は言う。 「……その言い方。姉は……」 「はい。私には、生まれることが出来なかった双子の姉が……いたんです」 「それで一人二役……か」 「はい」 萌葱は話し始める。自分の過去を。 「そのせいで、母は心を病んで――いもしない姉に、「浅葱」に話しかける。だから私はそれを本当にするために、嘘を付き続けるしかなかった。姉は、西宮浅葱はここにいる、って。 だから私はずっと思ってたんです。私は生まれないほうがよかったんじゃないか、生まれてきたのが私みたいな暗くて駄目な子じゃなくて――母が求め、私が演じてきた、明るい西宮浅葱なら……って。 そしてそんな時に、あの本の話を聞いて……私は。 これなら、再び姉を生まれ直させることが出来るんじゃないか……って」 「待て、萌葱。お前は勘違いしている」 竜朱はあわてて言う。 「誰から何をどう聞いたかは知らないが……あれはそういうものじゃない。 あれは胎児に魂が宿る前に結界を敷き、封じ……そして天使や惑星霊などを召還し降ろし受肉させて人為的に超人を作るという、狂った発想の魔術儀式だ。思い通りの人間を造るようなものでもなく、なによりも成功例は報告されていない」 だが、萌葱は言う。 「ええ、知っています。知っているんです」 「……お前」 その静か過ぎる雰囲気に、口調に、竜朱は不吉なものを感じる。 「その方法では、確かに姉は戻りません。私が望むのは天使でも惑星霊でもない。だけど……でも」 萌葱は足を進め、そして扉を開く。 「私の細胞から作り出したクローン人間に……その「月の子」の発想を使い、アレンジして……死んだ姉の魂を召還して受肉させたなら?」 その部屋は、機械音と水泡音に包まれた異質な空間だった。 天井、床、壁を無尽に埋め尽くすコードとパイプ。 脈打つすれはまるで生物の血管のよう。そして突き立ついくつもの巨大な培養槽は内臓か。 その中は溶液と水泡で満たされ、中に何があるのかは一目では判らない。 その中の巨大なひとつに―― 「浅……葱?」 培養液の中にたゆたう、少女の姿があった。 「そうだよね、お姉ちゃん。いままでずっと待ってたけど、ついに……この時が来たよ」 「お前……何を。何をたくらんでいる!?」 竜朱が叫ぶ。だが次の瞬間、周囲の機械から気体が噴出される。 「……! これ、は……ガス……!?」 気づいたときには遅かった。視界がぶれる、膝に力が入らなくなる。 「見事に……餌に食いつきましたか」 部屋の奥からの足音と声。田辺の嘲笑を聞きながら、竜朱は倒れ伏した。 「よくやりました、西宮くん」 「……はい」 「これで邪魔者は大人しくなる。ですが彼のようなものが来たということは、感づかれている。儀式を早く完成させましょう」 「でも……」 「大丈夫です。彼女の成長は予想以上に進んでいる。毎日毎晩、君が彼女に熱心に話しかけたのが幸いしているのでしょうね。 そう、準備は整った……いよいよです」---- トップに戻る 作品保管庫に戻る
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必殺技 発気掌 ↓↘︎→ P 転身翔 →↓↘︎ 双掌進(※1) ↓↙︎← 虎尾脚(※2) K 連撃蹴 ジャ↓↙︎← 斜上腿 接←↙︎↓↘︎→ 燕雲十六手の構え① ↓↓+A(構え後移動•リ超発動可) ┣単掌進 ①〜 A ┃燕雲下爪┣(★•※3) B ┣燕頷双掌打 C.A ┣流燕旋脚 D ┣旋回燕(※4) ↑+K ┗前掃燕舞 ↓+D.→+B 裏燕の構え② ↓↓+B(構え後移動•リ超発動可) ┃燕龍盤打┣(※5) ②〜 A ┣燕刃脚(※6) B ┃背撃手┣(★•※7) C ┣燕尾脚(※2) D ┣背身天落投 接↓↘︎→+P ┗裏燕流舞 →→+BD 構え解除 ①•②〜←← 超必殺技 双掌天連華(★) (↓↘︎→)×2+P リーダー超必殺技 天翔乱姫 (↓↘︎→)×2+E 投げ技 天落投 接←•→ C/D 反転投 ジャ接↓ 特殊技 穿撃蹴(※5) → B 高蹴打 ジャ↓ 旋撃手(※8) ↘︎+C (補足) ※1…出ぎわにAB同時押しでブレーキング可•①に移行する ※2…ヒットした瞬間にAB同時押しでブレーキング可能 ※3…燕頷双掌打•流燕旋脚でキャンセル可能 ※4…連撃蹴でキャンセル可能 ※5…攻撃後は①に移行 ※6…構え技以外の必殺技でキャンセル可能 ※7…燕尾脚でキャンセル可能 ※8…攻撃後は②に移行 キャラ別索引 KOF(03•XI)
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ラノで読む ピ○ニック それは、昭和五十六年から販売している乳製品の名称である。ブリックパックと呼ばれる直方体容量二五〇ミリリットルの紙容器にポップな書体でPiknikと記載されたパッケージングの飲料は、誰もが見知ったものであろう。 というのも、形状からくる運搬性の良さや密封性による長期保存が可能なこと、可燃ゴミとして処理可能な紙容器であること、また、二五〇ミリリットルという昼食の飲料として飲み切りやすい容量などメリットが多く、学校などの公共施設の売店などで販売されることが多いからだ。 多分に漏れず、当校の購買部でも購入可能な飲料の一つであり、昼食時にはパンを片手に生徒が口にするのを皆さんも見かけることが多いのではないだろうか? さて、こんなどうでも良い話をしたのにはワケがある。このピ○ニックにはある伝説があるのだ。 恐らく、一部の生徒は聞いたことがあるのではないだろうか? そう、星の数ほどある双葉学園七不思議のひとつに数えられる“幻のピ○ニック”の存在だ。 幻のピ○ニック――。それは入荷日も入荷数も不明で、何味なのはもちろん、どんなパッケージであるかも判明していないという謎のピ○ニックである。 この幻のピ○ニックを奇跡的に入手し、飲み干した人には『好きな人から告白されました』とか『期末試験のヤマが大当たりでウハウハです』とか『飲み干したパッケージを懐に仕舞っていただけで突如として幸運が舞い込むようになりました』とか『飲んだだけで悩みだった身長が五センチ伸びました!!』とか『競輪競馬で大儲け! 幻のピ○ニックさまさまです!!』といったなんとも摩訶不思議な幸運、いや露骨にうそ臭い奇跡が舞い込むという…… 噂である。 まあ、都市伝説に代表されるような根拠が曖昧な噂というものは、基本的には眉唾物であり、尾ひれが付くのは当然で、時には尾ひれや背びれだけでなく、手足まで生えて一人歩きしてしまうもの。 恐らく、この幻のピ○ニックもそういった類のものであり、誰かの勘違いから始まり、フォークロアが辿る流れと同様に伝聞する間により面白く装飾され、時には枝葉を切り落としブラッシュアップされ現在の形になったのだろう。 少なくとも私はそう考えていた。 だが、私は出会ってしまったのだ。幻のピ○ニックを知っているという人物に。 幻のピ○ニックを知っているという人物の情報が私の元に届いたのは今年の十二月の中旬のことである。 十二月中旬といえば、恐らく多くの生徒の懸念だった期末試験も終了し、目前に迫った冬休みに心躍らせたり、クリスマスの予定についてイチャイチャしながら乳繰り合ったり、ソロイベントだけは避けようと血眼になってお相手を探そうとしたり、すっかり諦めモードになり悪意を周囲に振りまいたりと、一年を通して二番目くらいに学園内がドロドロに愛憎渦巻く時期である。 そんな時期にあるツテから情報がもたらされたのだ。 独特の空気感に辟易し、センセーショナルな記事のネタを探していた私にとってそれは渡りに船と言えた。 ただ、情報提供者に直接会うことは叶わず、電話でのインタビューが精一杯とのこと。だが、これでは裏が取れない。間を取り持ち、このインタビューのお膳立てをしてくれた馴染みの情報屋も、情報提供者の人物像を曖昧に口を濁すだけ。なんとも歯痒い。 私は情報提供者と何とか直接接触し、確証を得たかったが、頑として相手の許可は下りなかった。 結局、折れたのは私の方で、先方の指定する公衆電話を通じてのインタビュー、しかも向こうは変声機で声を変えてという非常に用心したものだった。 私は先方に指定された当日、島内のとある公園に設置される公衆電話に足を運んだ。 予定の時間に一秒も遅れることなく、公衆電話のベルが鳴り響き、私を驚かせる。 私は慌てずに受話器を取り「もしもし?」と相手に向かって話しかける。 暫しの沈黙、そして――。 『周りには誰もいないか?』 電子的に変声された音声が耳障りなノイズと一緒に聞こえてくる。電子的に変換されているとはいえ、相手の緊張感が手に取るほどに伝わってくる。この告白は彼もしくは彼女にとって相当な勇気が必要なものだったのだろう。 もちろん私一人だ。 そう答えると、安心したのか大きく息をする音が聞こえてくる。 『では、電話機の下にある封筒を取って中を見ろ』 なるほど、電話機の下にある電話帳を置く棚に大きめの茶封筒がある。私は肩と耳で受話器を挟みながら封筒を拾い上げ、中にあるものを取り出す。それは一枚の写真だった。 これは? 『それは証拠の写真だ。それが幻のピク○ックだ』 私は相手に伝わるように大げさにため息をつく。 理由は簡単だ。その写真というのがなんともピントがぼけて殆ど判別できないような代物だったからだ。 これでは証拠にならない。私はそう言う。 『しかし、それが私には精一杯なのだ。購買部のお姉さんの目を盗んで撮影するのにどれだけ苦労したと思う?』 そんなことは知らない。貴方が苦労しようと、購買部のおばさんが邪魔しようと、こちらの知ったことではない。確実な情報が欲しいのだ。 『――お姉さんだ』 はい? 『おばさんではない。お姉さんだ。ああ見えても、まだ二十代後半なんだぞ』 とりあえず購買部のおばさんの情報は私は知りたくもない。嫌いじゃないが年上過ぎる。 しかし、これでは確証を得られない。もっと有用な情報はないのだろうか? 『なら、明後日の昼休みに購買部にくるといい。保冷機の右隅に一つだけ黄金色に輝くピク○ックがあるはず。それが幻のピク○ックだ。自分の目で確認してみるがいい』 それは入荷するということか? だがこの写真では判断しようがないぞ。 『黄金色に輝くハートのパッケージ。言えるのはそれだけ。あとは何とかしろ。それとおばさんじゃなくてお姉さんだ』 受話器の向こうでガチャリと音がして、電話が切れる。 全く、情報提供者は一体誰なのだろう? 私には全く分からない。ただ、購買部のおばさんの年齢を気にする人なことは確かなようだった。 うーむ、全く分からない。謎の人物だ……。 私がピンボケの写真と僅かな情報を手がかりにして色々と調べるも全てが徒労に終わり、あっという間に情報提供者がいうその日になる。 手元にあるのはピンボケした写真と『黄金色に輝くハートのパッケージ』という不確かなものばかり。 しかもそれが購買部の保冷機の右隅に今日置かれるということだけだ。 だが、確かめざるを得ない。千載一遇のチャンスなのだ。私は自分の能力に感謝する。 私の能力は固定座標の空間を認識から除外する能力。つまり、私が指定した空間は誰も認識することができなくなる。適用空間の範囲は最大でも三メートルで、効果を発動できる距離は十メートルと限定されるが、補助系の能力としてはかなり有用だ。 私は前日、入念に購買部の位置関係を確認し、失敗のないように祈る。 保冷機の右《・》隅だ……。 当日、いつものように人の波が購買部へと押し寄せる。もちろん、全ての生徒がではない。弁当を持参する者もいるし、食堂で済ます生徒もいる。そういった中で、購買部でパンやおにぎり、お弁当を買う人たちがいるというだけだ。 だが、呆れるほどに生徒数が多い双葉学園ではそれだけ分散していても食物の確保は戦争状態である。能力を発動させて他者を蹴散らす馬鹿者どもは殆どいないが、それでも主婦の狩場と変わりない弱肉強食の世界がそこでは繰り広げられる。 四時限目の授業をばっくれていた私は授業終了のチャイムと共に能力を発動させる。これで他者には該当のブツは見えなくなるはずだ。だが、チャイムが鳴り響いた直後にも関わらず大量の生徒が購買部に集まってくる。私のようなさぼり組みはもちろん、テレポーターや加速系、身体強化系の能力者たちが存分に能力を発揮して希望のブツを手に入れようと購買部に集合したのだろう。 一瞬気圧され戸惑ったのが運の付きだった。気が付いた時にはそこは戦場。私の目の前は人《・》山《・》の黒《・》だ《・》か《・》り《・》で一歩も前に進むことができない。だが、能力はすでに発動している。あとは持続時間が終わる前になんとかそこに辿りつくだけだ。 私は幾重にも重なった人の集まりに辟易しながら、その山の中に突入することにした。 これ下さい! 私は、私だけが認識できるように保冷機の右《・》隅のそれを手に取ると、起用に大量の生徒たちをあしらい清算していく“お姉さん”に小銭と一緒に突き出す。 「はい、これおつりね」 そう言っておば……お姉さんは私に籤に外れた人を見るような残念な顔をした。 私は再び人だかりを掻き分け、餌に群れる群集から抜け出ると、大きく胸を撫で下ろす。これで、幾万もあると言われる双葉学園七不思議のひとつが判明するのだ。 鼻息荒く、高鳴る鼓動を抑えつつ、私は手に持ったそれを視界に入れる……。 「明○のブ○ックじゃねーかっっ!!」 私はとりあえず手にした四角い紙容器のそれを床に思いっきり叩きつけることにした。 「で、これを私にどーしろというのだ君は?」 オレンジ色の夕日を背にしながら、目の前にいる人物はそう言ったあとに大きくため息をつくと、机の横にあったゴミ箱に今しがた書き終えた私の原稿の束を無慈悲に放り捨てる。 これでクリスマスの予定も無視して全力でこの記事に打ち込んだ私の苦労は水の泡になった。この取材と記事にかまけて、メールや電話を無視していた彼女からは、ここ数日メールさえ来なくなった。私ではない男子と楽しそうに歩いているところを見たという情報もある。 全く、これは最低のクリスマスの幕開けではないか。手遅れになる前にフォローの電話かメールを入れておくことにしよう。 私の鬱々とした気持ちを無視して、編集長は机の上に置いてあったジュースのパックを手に取り一飲みする。 「あら、これ美味しい!?」 そして、メガネの奥にある大きな目を丸々とさせて、手に持ったパッケージをマジマジと見つめ始める。 それに釣られて私も彼女の手元を見てしまう。だが、彼女の手に隠れて上手くみることができない。指の隙間から見えるそれは私の知らない物のように見える。 「ふーん、また今度買って見ようかしら……」 彼女がそう言ってゴミ箱に捨てた瞬間、後ろポケットに入れていた携帯が振動し、メールが着信したことを知らせる。 私は部長に軽くお辞儀をしてメールを見る許可を得ると、携帯電話を開き、着信メールを確認する。 久しぶりの彼女からだった。 ゴメンナサイ さよなら それだけが液晶に表示されていた。馬鹿ではない私はそれで全て分る。私は振られたのだ。自業自得とはいえ、やはり目の前が真っ暗になり、世の中に絶望してしまう。もう部活を行う気にもなれない、このまま帰ってしまおう。 「と、ところで……森永君?」 携帯に届いた着信メールに打ちのめされ、亡者のごとく今にも倒れそうにゆっくりと鉛のような両足を引きずりながらようやく部室の戸口まで辿り着いた私に声を掛ける。それは部長がいつもの部下を厳しく叱咤するのとは異なる、女性らしいトーンであった。 なんでしょう? 「あの、あのね? 森永君はク、クリスマスとか何してるのかな?」 今しがた自宅でフジテレビの深夜番組に電話をすることに決めましたが? 「そ、そうなの? 予定はないのね。実はさ、私その、と、友達とパーティをするんだけどさ、みんな彼氏付きでね、わ、私も男の人を連れて来いって言われてるの。でも、そういうあてもないから、森永君ならいいなら、一緒にどうかなーって? いや、あの、む無理だったらいいのひょ? だって…ほら、私なんてメガネで地味でいっつも森永君のこと怒ってばっかりだし、それに年上だし……」 彼女は頬を赤らめ、私の方に視線を合わせることもなく、手で髪の毛をいじりながら一方的に話続けていた。 おそらく、そのパーティというのは彼女の友人たちがこうなるように仕掛けたものだろう。告白する勇気のない彼女を無理矢理にでも告白させて、なんとかしようという魂胆に違いない。 しかし、男ッ気のない部長が私に気があるとは日頃の態度からは全く気がつかなった。人一倍厳しく当たるし、事あるごとに小言と嫌味ばかり。もちろん、彼女の一言一言は正しく、校正や企画内容の駄目出しも的を射たものばかりである。 それだけに尊敬こそすれ、女性と見なすことがこれまで出来なかった。 彼女はこんなに可愛らしい女性だったろうか? 頬を染め自分の言ったことに恥らう姿に私の鼓動が早くなる。目の前にこんな魅力的な女性がいたのに気が付かないとは。私の目は曇っていたようである。 ――いや、ちょっと待て。彼女が飲んでいたのはなんだ? 隙間から見えただけだが、まるで情報提供者からのアレのようではないか? チョット待てよ。アレには色々な効果があったはず。いや正確には噂される、だが。 なるほど。そういえば効用の一つに『恋の成就』があったはずだな……。 私は思わず彼女が飲み干したブリックパックの四角いパッケージを確認したくなる衝動に駆られる。 だが、それを私は思いとどまることにした。もちろん、今全力でゴミ箱に走りより、そこに打ち捨てられたパッケージを確認すれば、一緒にゴミ箱に入っていた私の原稿もめでたく没ではなくなり、次号の誌面に掲載されるかもしれない。 それはできなかった。 彼女が捨てたものが、本当に幻のピ○ニックだったら癪だからだ。 ジャーナリストとして、真実を追究する気持ちは揺ぎ無い。でも、そんな呪いのようなもので自分の心が動いたなんてことはそれ以上に思いたくもない。 何故なら、私は彼女の精一杯の勇気を振り絞ったこのお誘いに笑顔で首を立てに振ることに決めたのだから。 これは私の意志である。何より彼女が告白したのも彼女が精一杯振り絞った小さな勇気の賜物だ。 幻のピ○ニックがもたらした奇跡でもなんでもないのだ。 では部長、そのパーティはどちらで行われるのですか? 偶然にもクリスマスは暇なんですよ。 私は彼女の問いにそう答えることにした。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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~双葉半角人狼鯖~ 【紫炎鯖】http //shien.halfmoon.jp/jinro/jinro_index.htm 最大人数変更可・初日犠牲者あり・実時間選択可・20人から人狼4に アイコンシャッフル、独り言機能が追加され実質メイン 【PHP鯖】http //shien.halfmoon.jp/jinro_php/index.php GM不要、初日犠牲者あり、各種オプションあり、詳しくはルール参照 【メイン】http //nekoaisu.hp.infoseek.co.jp/public_html/jinro_index.html 8人から狼は狂人の判別がつきます ~汝は双葉人狼なりや心得!~ ※初めての方や他スレからこられた方もテンプレによく目を通してください。 ・まず最も重要な事、誰がどの役とかのネタバレは絶対禁止。 ・詳細ルールは「双葉汝は人狼なりや?」ルール説明を参照。 ・用語集・攻略・他人狼スレ、基本的な諸注意などは 2-7あたり ・荒れる事をスレに書き込む人は荒らしです。 ・村・チャットなどスレ以外で起こった問題はスレに持ち込まず スレ以外の発生地で解決しましょう。 ・荒らしは自作自演して自分を優位に見せます。 住民が荒らしをスルーしてる限り、荒れる書き込みは荒らししか書いていません。 ・荒らしにレスする人も荒らしです、スルーしましょう ・マナーとモラルを心がけ、E&E(エンジョイ&エキサイティング)! ・書き込みが950を越えたらその辺りの人が新スレを立てること。 ※村作成は安易にせずにきちんと点呼をとってからにしましょう。 前スレ 汝は人狼なりや?スレ ○○夜目 http //www.2chan.net/test/read.cgi/ascii/xxxxxxxx/ ~関連URL~ ・初めての人はここを読んで勉強しよう(各能力別役割パターン等) http //wearwolf.netgamers.jp/wiki/ ・双葉人狼専用Wiki http //www11.atwiki.jp/jinro_hutaba/ ・雑談・待機用チャット (気軽に入室。雑談や特殊ルールなどに使用。) http //www.geocities.jp/jinrounariya/ ・汝ハ人狼ナリヤ?(人狼リンク集) http //jinro.nobody.jp/ ・人狼-荒神・紫炎鯖ログ-私的保管庫 http //bunnys.ddo.jp/jinro/ ~人数早見票~ 数8 村人5~6 狼1~2 占1(村人は5or6、狼は1or2のランダム、霊能者無し) 数9 村人5 狼2 占1 霊1 狂0 狩0 共0 狐0 数10 村人5 狼2 占1 霊1 狂1 狩0 共0 狐0 数11 村人5 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共0 狐0 数12 村人6 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共0 狐0 数13 村人5 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐0 数14 村人6 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐0 数15 村人6 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数16 村人6 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数17 村人7 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数18 村人8 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数19 村人9 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数20 村人10 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数21 村人11 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数22 村人12 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 ※紫炎鯖ではプレイヤー20人以上から人狼が4名になります。 数20 村人9 狼4 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数21 村人10 狼4 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数22 村人11 狼4 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 ~GM(ゲームマスター)心得~ ・GMがプレイヤーとして参加する時は仮GM機能を使うこと! ・村は原則としてスレまたは村内で宣言してから立てるようにしましょう。 ・村立てや開始時間は時間に余裕を持ってスレへ宣言、前もって宣伝 (村人を取り合わないように宣言してすぐに立てない)。 ・乱立した場合は統合すべくスレで話し合いましょう。 ・立てた村には責任を持って最後まで付き合いましょう。 ・使われずにゲームが開始されなかった村はきっちり消しましょう。 (GMは村を作成のところで村を終了を選んで不要な村は消すこと) ・1つの鯖で同時に動かせるのは2つまで。3つめの村は建てないようにしましょう。 ・同じ鯖ばかり使わずに使用する鯖を適度に分散させましょう。 ・荒神鯖での心得 実時間村が1つ稼働中の場合は2つ目以降の村は仮想時間村にする事。 (実時間村は負荷が高いので同時に2つの実時間村はデンジャラスです) 廃村は一番負荷が掛かります。なるべくしないようにお願いとの事です。 ~村民心得~ ・プレイ時間は展開にもよりますが16名で役1時間半、22名で2時間弱かかります 最後までできるかよく考えてから参加しましょう。 ・無駄な『突然死』をさせないようにしましょう。 重要な役に選ばれたりするとゲームが無駄に混乱します。 ・誤って村民登録した際は、ゲーム開始前ならGMに通告することによって村民登録を外せますが、 ゲーム開始後は突然死でしか参加者を消せません。登録自体を抹消はできません。 ~他スレ交流心得~ ・他の人狼サイトに違うスレ・違うサイトの専用村を作らないこと。 (人狼サイトには各々の専用の村人募集スレがあります) ・村を作る時は、その人狼サイトの専用スレで村立て宣言し募集をすること。 ・作った村の村人を他スレで募集する場合は、まず専用スレで募集した後に他スレで募集すること。 他スレでの募集の仕方は、募集元のスレURLを貼る。人狼サイトと村名だけを書き募集しないこと。 そして募集元のスレを経由してスレ住民として遊ぶこと。 ~用語集~ 【 E&E! 】 エンジョイ&エキサイティング! 【 CO 】 カミングアウト Coming Out の略 主に能力者の宣言の時に使用される。 占いCO 霊能者CO 等。 【 GJ 】 グッジョブ Good Job の略 良い仕事。また、そういう仕事をした人に送る声援。 占い師GJ 池上GJ 等。 【 吊り 】 処刑の事。 【 池上 】 スラムダンクに出てくるディフェンスに定評のある三年の池上が元ネタ。 狼の攻撃を防いだ狩人に対して使われる。 【 森崎 】 狩人が占い師や守るべき能力者を守れなかった時に使われる言葉 元ネタはキャプテン翼にに出てくる南葛のSGGK(スーパー頑張り ゴールキーパー)こと森崎君。 【 プリキュア 】 共有者のこと、白キュアと黒キュアも同じ。 元ネタが判らない奴は、虹裏へ来る資格無し! 【 デスノ 】 デスノートの略で、更新をしてないプレイヤーやゲームの進行を妨げる人に対して GMが最終手段として強制的に殺してしまうこと。 元ネタは週間少年ジャンプで連載していたDEATH NOTE 【 RP 】 ロールプレイの略、なりきりの事。 【 チャック 】 過去迷推理で村人を混乱させ、果てには最終投票で千日手になった際に、 狼とは無関係の可憐な人に投票し勝負を投げた愛すべき人である。 【 専務 】 過去狂人にもかかわらず占い騙りした際占い師と同じ動きをし 狼に狼判定を出してしまい挙句村人勝利に貢献してしまった人。 今では狂人が人狼側不利に動く事を総じて専務と言うように。 【 PP 】 パワープレイ、組織票、ニヤニヤendの事。 【 妖怪ノシノシ 】 スレッドに伝わる都市伝説 それに泣かされたGMは数多し、のしのしの歴史は古い 【 地雷村 】 点呼無しで突然現れる村 GMが消さないor定員が埋まらない限り一生住民登録画面に残る 誤って登録しないように注意 初めてのGM心得 ―見てから建てろ!― 1.スレで点呼を取る 必須、点呼ついでに希望鯖や仮想時間・制限時間のアンケートをとると良いかも 昼は無しor7~12分、夜は5分~7分辺りが望ましい。 発言し放題の場合制限時間なしにすると大惨事になるので注意 (昼は全員が投票しないと終わらない等) 発言し放題の場合は90秒の自動沈黙等をつけることをオススメします。 2.点呼を確認したら村を作成する どの位かは最低3人から上はいくらでも、4人辺りが平均的 作成手順はゲーム進行手引書(↓)を参考に http //shien.halfmoon.jp/jinro/jinro_gm.htm 3.スレに作成した事を知らせる ○○鯖 ○○村 ○○番地 (仮想時間のみ 自動沈黙:90秒) 立てました、参加者募集中です。等 4.作成した村に”村長”で入室する 村に入ったら何でもいいから発言してくれると入る人はちょっと安心 GMが居ないかもしれない、と言うのはかなり怖いので。 人が来るたびに挨拶するのもいい 5.定員が集まったorこれ以上参加者が来ないと判断したら開始する これより○分後に開始するので皆さん準備・更新しておいてください等言い 行動内容の中から”ゲームの開始”を選び行動してゲームスタートさせる (15人以上からは妖狐発生人数なので発生させる方がいい) 開始お勧め人数は 8・9・11・12・16・22人 有利不利が少ない人数。 6.開始報告をする 忙しいかもしれないがこれだけは絶対に忘れてはいけない。 開始すると決めたら、開始ボタンを押す前に開始報告の内容を用意するのも手。 開始報告をしないと周りの人に多大な迷惑をかけます。 これが出来ないGMは叩かれるかもしれません。 7.上から生暖かい目で見守る 昼・夜が終わりそうな際に各々の更新時間を見ておく 初日犠牲者 初日犠牲者さん [村 人]◆ 04/06-18 40 ← ここが最終更新時間 5分以上更新がない場合この時間を示す文字が赤くなる ゲーム進行を妨げる恐れがあると判断する場合即座に 行動内容の 突然死 を選び対象をデスノする 投票時間になり止った場合は考えている可能性大なので少々待つ 3分以上投票のない場合はそは未投票者に通告、を使っても良いだろう 投票時間は”再投票”をする事によりリセットされる、巧く使おう。 7.ゲームが終わったらスレに終了報告をする ○○番地、村人勝利でした、等 村の簡単な感想を入れると尚良し GMの仕事と言えばこれだけ これだけをきちんとしてくれれば村作成大歓迎。 時間設定について 時間設定、バランスについて纏めてくれた方の文を多少改変し、転載させて頂きます。 経験の浅いGMさんは参考にされると良いかと思われます。 【昼:議論する時間】 昼無し=仮想時間のみ。 シンプルイズベスト。 昼 5分=少人数専用 昼 7分=16人以上だと短いと感じる事も。 昼10分~時間設定無しでだれると思うならこの辺で。 【夜:狼の作戦会議時間】 夜無し=初心者狼だと必要以上に長くなることが多いので× 夜 5分=16人以上のなら短いかも 。 夜 6分=5分では短い、7分では長いと思う方はこれを。 夜 7分=大人数ではこれが良いかと、狼にやさしい。 夜10分~ガチ推理村用。 【投票制限:GMのやることが減ります】 3分=ナローな人やPCの調子が悪い人は死ぬ可能性あり 5分=余裕があり、ベスト 7分=7分にするなら無くて良いかも 【自動沈黙:サクサク進行したいならお好みで】 90秒=付けるならこれがオススメ 120秒~付けても付けなくても一緒かも 開始人数について 8人開始、最低人数、狼1なら村人、狼2なら狼有利 9人開始、霊能者発生、最終日4人、狼有利 10人開始、狂人発生、狼超有利 11人開始、狩人発生、狼若干有利 12人開始、吊り回数デフォルトで5回、村人若干有利 13人開始、共有者発生、村人有利 14人開始、村人大幅有利 15人開始、オプション妖狐発生可能、村人vs妖狐、狼超不利 16人開始、人狼3に、バランス良 17~19開始、村人有利 20人開始、紫炎鯖のみ人狼4に、狼有利? 21人開始、狼まだ若干有利か 22人開始、バランスよさそう。だけど長い。 以上の事から 開始は8・9・11・12・16・22人開始がオススメ。 時間設定は ~12人まで昼無し~10分、夜5分 16人以上は昼無しもしくは10・12分、夜7分辺りがいいかと。 妥当と思われる設定 8~9人(少人数村) 仮想時間or喋り放題 昼なし~7分 夜3分 投票3分 11~12人(中人数村) 仮想時間or喋り放題 昼なし~10分 夜5分 投票5分 16人(大人数村) 仮想時間or喋り放題 昼なし~12分 夜5~7分 投票5~7分 自動沈黙はお好みで ~他~ ・荒神鯖ログ置き場 http //futabajinro.fc2web.com/ (PHP鯖テスト鯖) http //jinro.zapto.org/ (PHP4 + MYSQL移植版・GM不要システム開発中 他鯖との仕様の違い説明や管理者への連絡板は http //p45.aaacafe.ne.jp/~netfilms/ ) (サブ・荒神鯖) http //aragami.lib.net/jinro_index.htm (最大人数変更可・初日犠牲者あり・実時間選択可) 一時閉鎖 (仮設荒神鯖) http //motoa.at.infoseek.co.jp/cgi-bin/jinro_index.htm (特殊ルール無し、仮想時間のみ) 村宣伝テンプレ例 会場URL (鯖のアドレスhttp //www~ ) 【 部屋名 】 (ここに村名)村 xx番地 【 開始時間 】 xx xx 集まらない場合はxx分延長 【 予定人数 】 8人~xx人 【 妖狐に関して 】 15人以上集まればあり 【 時間制限に関して 】 発言し放題・仮想時間 昼xx分 夜xx分 【 RPに関して 】 他プレイヤーに不快感を与えない程度で 【 Kickに関して 】 更新がない場合、その他進行に支障が出る場合 【 その他のルール 】 システム(独り言含む)コピペ禁止、過度の暴言禁止 村人陣営による村人を不利にする騙り禁止 戦略的突然死禁止
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『裸の敏明feat.裸の幼女』事件の翌日。敏明は首に痛みを覚えつつ普通に登校していた。 風呂場に突如現れた幼女は、学園からやってきた黒スーツエージェントたちに連れられていった。エージェントといっても、この双葉区においては警察よりも頼りになるかもしれない学園の職員たちだ。 学園では普通の学校とまったく同じカリキュラムの授業が当然ある。 ただ、平常授業はまだ午前のみで、午後は部活動などの紹介が入っていた。 紹介が行われる大講堂へ向かって移動する途中、中学では帰宅部だった敏明は、さてどうしようと悩んでいた。 同じように帰宅部でも良いのだが、この学園都市での生活には、部活で同級生や先輩との繋がりを持つのが、かなり重要なことだと明日羽から言われていた。 埋立地という特殊な立地のうえ、大半の事実が秘匿されているという風変わりな場所である双葉学園では、コミュニティもまた閉鎖的に、強固なものとなる。 それに、単純に仲の良い友達を作っておけば、テストや授業でサポートしあえる。 これまでそういったことはクラスメイト、もしくは巡理に頼りきっていた(特に巡理に頼る比率が高かった)敏明だが、共同生活のために家事などで頼ることが増えるのだから、負担を減らしてやらなければと考えていた。 (センパイと同じ剣道部に……) ちらりと過ぎった案は、しかし即座に却下する。 運動部、特に格闘技系はついていける自信がない。超人系異能者の中に混じっての練習など想像するだけで恐ろしい。 異能者を含めない一般生徒限定の運動部という枠組みもあるらしいが、残念ながら敏明は異能者なのでそちらには入ることが出来ない。超人系と超能力系での区別などというものはさすがにないらしい。 「よう、双葉。お前はどこ入るか考えてるか?」 そう呼びかけてきたのは敏明と同じ一年A組の大渡だった。 最初のホームルームで定番の自己紹介をしたとき、いきなりセガ信者カミングアウトから入った強者だ。親が筋金入りのセガ信者で、幼稚園のときにやっていたゲームがWiiではなくメガドラだったらしい。 ちなみに敏明は漫画好きカミングアウトという、まだまだカワイ気のある自己紹介をした。 九十年代からのジャンプ漫画網羅というちょっとしたジャブに、クラスから予想外のリアクションが返ってきたのに驚いたが、エロゲ性癖カミングアウトして生徒指導室呼び出し最速記録を打ち立てた本田クンにはとても敵わない。 触手属性仲間として今度、何か差し入れようと敏明は密かに思った。 「いや、文化部にでもしようかなってくらいだ。大渡は?」 「俺はゲーム部あるらしいから決まりだな」 「それってテーブルゲームとか限定じゃないのか?」 「それがよ、コンシューマーはもちろん、アーケードも中古で揃えてるらしいぜ。ハングオンもあるんだってよ! こりゃ行くしかねえってカンジだろ!?」 ハングオンが何かわからない敏明は適当に相槌を打ちつつ手元のパンフレットを見る。 数十もの部活の紹介が載っている冊子は、下手なオンリー即売会のパンフより厚い。 「漫研もあるだろ? 入らないのか?」 「俺読むだけで描かないし」 「んじゃ、そっちの漫画批評部ってのは?」 「うーん……真面目に批評やるような部じゃなきゃ考えるけど」 「そこは普通、真面目にやってるなら入るって言うとこじゃねえのか?」 真面目に漫画批評やってます宣言する連中とはあまり友達になれないのだという宗教上の理由を、セガ信者というネジの締め方間違ってる友人にどう説明したものか。 「……あ、センパイ」 ふとパンフから顔を上げた敏明は、一年生の行進を警護する明日羽の姿を見つけた。この後の部活動紹介にも出るのか、彼女は剣道着を身に着けていている。 防具こそつけていないが、制服や私服姿ともまた違った格好が新鮮だった。祖父が電話で言っていたように髪を後ろで結んでいる。 明日羽も敏明に気付き、軽く右手を上げた。しかし、警護任務中だからか、引き締まった表情のまますぐ他所に目を向ける。 「……なあ、敏明くん」 「な、なんで急に名前で呼ぶんだよ」 「今朝、あの先輩と一緒に登校してきただろ」 「メグも一緒だったけどな」 「入学式の後、あの先輩と二人きりで保健室にいただろ」 「ずっと寝てたけどな」 「……」 「……」 「……何があった!? いや、何をした!? 正直に言えば命だけは助けてやろう!!」 「何もしてねえよ! 家がちょっと近所なだけだ!」 本当は一緒に住んでいるわけだが、それは正直に言えば命も危ないと判断する。 「近所だったら一緒に登校するってか? 小学生の集団登校か?」 ボルテージの上がってきたクラスメイトに困惑しながら、敏明はじりじりと後ろに下がった。それと同じだけ詰め寄ってくる大渡。 ふと気付くと、背後や左右にも目を細めた男たちが集まり、敏明を取り囲んでいた。 「お前やっぱアレだろ、なんかやったな? 犯罪的なことやってビデオ撮影してばら撒かれたくなかったら言うこと聞けとか脅迫でもしてるんだろ!」 「エロ本の読みすぎだ! お話と現実をごっちゃにしちゃいけません!」 傍を通り過ぎていくクラスの女子の視線が冷たいのを気にしつつ、強引に大渡を避けて歩き出す。 「センパイとは普通に知り合っただけだ。それ以上の関係とかは何も無いからな!」 その普通に知り合うというのが難しいのだ、という恨みの篭った視線を背中に受けながら、敏明は大急ぎで大講堂に飛び込んだ。 部活動紹介を終えて家に帰ってきた敏明と明日羽は客間に胡坐で向かい合っていた。 ちなみに明日羽は制服から着替えてパンツスタイルなのでチラリとかモロリとかはそんなものは無い。 「そう、そうやって心を落ち着けて」 静かに瞑想するように目を閉じる敏明の両の手を、明日羽はじっと見つめている。 彼女の目には、通常は異能者にすら見ることの出来ない魂源力 アツィルト の流れが、光として映っている。 「そうだ。なかなか上手い」 敏明の手は、常に大量の魂源力を消費する、いわゆる常時発動型 パッシブタイプ だった。 明日羽の魂源力を見る目も、同じような常に効果し続ける異能だ。 だが、明日羽は見えたままでは日常生活の中で邪魔になる魂源力の流れを、見ずにすむような訓練をしていた。 一般的な能動型 アクティブタイプ の異能者生徒が「いかにして異能を使うか」を学ぶのとは逆に「いかにして異能を使わないか」を身につけているのだ。 そしてそれを、早急に敏明へ教えることも、彼女の敏明護衛任務の一部に含まれていた。 学園でも異能に関するレッスンはあるのだが、それを待っている暇が無いのだという。 敏明の手がどのような危険を持っているのか、明日羽はまだ詳しくは教えられていない。 どのような事態が起きても対処するようにとだけ言われている。 そのような曖昧な指示では、本当に敏明の異能が危険なのかという疑問さえ生まれそうなものだが、 (実際に目にしてしまえば、それも納得だな……) 入学式のその日、彼は明日羽の目の前で手を光らせて異能を発動させた。 そのときは光る以外には何の効果も出さずに不発に終わったが、彼女の目にはとんでもない量の魂源力が彼の手元で消耗していく様がはっきりと見えた。 大量の魂源力を一気に使い切ってしまうような異能というだけで、その異常性は感じることが出来た。 その瞬間にはただ驚くばかりだったが、今考えてみればあれはかなり危険な状態だったのではないかだろうかと、今更ながらに明日羽は思う。 それと同時に、あのとき見た敏明の後姿は……大量の魂源力の渦を伴い、彼女を庇うように前に出た少年の背中は、そこだけ切り取ってみればとても頼もしかった。 明日羽は刀を手に、最前線で戦うタイプの異能者だ。実戦でそれなりの数のラルヴァを倒してもいる。 そんな中で、男性が盾になって自分より前に出てくれた経験というのが、今までは無かった。 結果は敏明が攻撃を受けて気絶するという情け無いものだったが、少しくらい感謝するのが筋というものだろう。 「センパイ? どうかした?」 明日羽はいつのまにか長いこと思考していたらしく、敏明に問われ慌てて取り繕う。 「あ、いや……飲み込みが早いな、敏明クンは。まだ完全とはいえないが、この調子ならかなり早く制御を身につけられそうだな」 「センパイの教え方がいいんじゃないか?」 「いや、教えるというのは難儀なものだ。私は剣道以外には人に教えたことなど無いからな」 「剣道は教えてたんだ?」 「そうだ、話していなかったね。私の実家は道場だったんだ。そこで自分より小さい子にはちょっとしたコーチをな」 「へぇ……ちなみに何流とかあるの?」 「普通のスポーツの剣道だよ。竜とか虎とか熊とか付くような技があったりはしないからな」 「はは、センパイもそういう漫画とか読むんだね」 「兄弟子たちに勧められてな。少女漫画よりもそっちのほうが読んでいたよ」 「むー、なんか良いフインキー」 「うおっ!」 突如として真後ろから聞こえてきた声に、敏明は思わず振り返りながら飛び退いた。 その時、驚きのせいか彼の手は咄嗟に光を放つ。 「わ」「あ」「ぬ」 突然の出来事に三者三様の声が漏れた。 バランスを崩した敏明が明日羽を押し倒しつつ彼女の胸をしっかりと鷲掴んでいた。 「シッ」 咄嗟の反撃は昨晩四番目のラッキースケベ時と同じく手刀だ。 「うぐ」 「……すまん、またやってしまった」 首筋を打たれた敏明がぐったりと倒れた。明日羽は申し訳なさそうに眉根を寄せた顔で見つつ、届かない謝罪を告げる。 起き上がり、敏明を仰向けに寝かせなおしていると、巡理が唸り声を上げた。 「……むー」 「山崎、どうした?」 「いつのまにとっしーと仲良しになったの?」 「は? 仲良し……に見えたかい?」 「だって今タメ口だったし、下の名前で呼んでるし、なんか和やかな会話が繰り広げられてたけど」 「これから一緒に暮らすわけだからな、普段から堅苦しく過ごすのは息が詰まるだろう」 それ以上の意味は無い、ということを言っても巡理は納得していないようだった。 「それだけかなぁ……」 明日羽は少し迷ってから、表情を改めた。真面目に、少し目元を細めて。 「……君が今までずっと彼の守護者だったというのは、聞いているよ。それなのに急に護衛を増やすことになったというのは、腹立たしいことかもしれない」 「……」 反応は沈黙。肯定はしないが、否定もしない。 「だけど、私は別に君の居場所を取りたいわけじゃない。与えられた任務はこなすし、敏明クンとも仲良くやって行きたいが、君を追い出すようなつもりはないとも」 「……ウン」 「それに、出来れば君とも上手く付き合いたい」 そう言って差し出された明日羽の右手を、巡理はすぐに握り返す。しかし、 「……ずるいなぁ」 「ずるい?」 「センパイって良い人なんだもん」 なんと応えればよいのか困り、明日羽はごにょごにょと小声で、そうかい、と呟く。 和やかな雰囲気が流れ……かけたところで、 「でも負けないからね!」 巡理がややこしいことを言い出す。 「……勝ち負けの話はしていなかったと思うが?」 「とっしーは渡さないんだから!」 「わ、渡さないって、一体何の話だ!?」 「だから、とっしーの一番は譲らないよ」 「敏明クンの一番……って、それはまさか」 「……ぅぅ」 二人の叫び声のせいか、敏明が目を覚まして唸った。痛む首をさすりながら起き上がる。 「ご、誤解があるようだ。その話はまた後で」 明日羽は巡理にだけ聞こえるように小声で言うと、そそくさと立ち上がった。 「あー……ごめんなさい」 敏明の謝罪にも小さく頷きを返すだけで客間を出て行く。 その様子は、敏明には怒っているように見えた。 「嫌われちまったか?」 「いきなり胸握られたのを、チョップ一発で済ませるほうがおかしいよね」 「やっぱそうだよな……あー、どうすりゃいいんだ俺」 巡理は何を考えているのか、明日羽の去った後をしばらく見つめていた。 「……おかしいよね」 「ん? どうした?」 「ボクの胸なら揉んでも笑って済ませてあげるよ」 「揉めるほどの大きさはn、ウソごめんなさアッー!」 自室に戻った明日羽は、ベッドに仰向けに倒れるように寝転がった。 「何故、後でなんて言ったんだ、私は」 先ほどの巡理の発言は、勘違いの末の無意味な宣言だ。 明日羽も年頃の娘なので色恋沙汰というのに興味がないわけではない。だから、巡理の言葉の意味がわからないなどという朴念仁なことは無い。 しかし、敏明に対してそういう感情は持っていないので、巡理が奮起するようなことはなにもないのだ。 敏明が目を覚ましたからといって気にせずに、その場でそう説明すれば済んだ話のはずである。 それをせずに話を先延ばしにした上、逃げるように出てきてしまった。 おかしいと思われただろう。巡理だけでなく敏明もどう思っていることか。 なにより彼女は自分で自分の行動をおかしいと思う。 「……どうしたものか」 自分で自分がわからないのに、どうするもなにもない。 「敏明クンの一番、か」 巡理の言っていた言葉を反芻する。 一番ということは二番があるのだろうか。 いや、そんな問題ではない。 別に私は彼の特別な存在になりたいわけでは、いや、護衛する人間という立場で言えば確かに特殊だが。 それに、渡す渡さないなどというのは敏明という一個人の人権を無視した言葉であって……云々かんぬん。 少し見当違いな方向に思考が飛んでいく程度に、明日羽は混乱していた。 入学式で出会ってから二週間ほど、これまでそういった意識をせずに、護衛対象の後輩の男子くらいに見ていた相手。そのはずだ。 だからこそ、同じ家に住むことにも了承したのだ。家賃免除という利点が無いことも無いが。 「そういえば……今日も大講堂で」 入学式のときのように、新入生全員を集めた部活動紹介が行われた。 自分もあの時同様に新入生の列を警護し、その中に敏明の姿を見つけて手を振った。それはいい。 そのすぐあとに聞こえた敏明の声。 『センパイとは普通に知り合っただけだ。それ以上の関係とかは何も無いからな!』 何の話をしていたのだろうというのは気になったが、警護任務に集中していたため、あっさりと聞き流していた。 彼の言っていることには嘘が含まれてはいるが、同居して護衛している関係だなどとクラスメイトに言ってしまえば話がややこしくなるのだろうということはすぐにわかったので構わない。 でも、ただの知り合いだと言われたことを改めて思い返すと、 「……はぁ」 少しガッカリして、溜息を吐いているいる自分に気付いた。 一度、巡理の言葉によって見方を変えさせられてしまうと、どうしても男として気になる。 それは「私の服をお父さんの靴下と一緒に洗濯しないで」的な、年頃の娘ゆえの当たり前の反応なのか。 それとも明日羽という一女子から、敏明という一男子への特別な反応なのか。 そんなことは無い。無いはずだ。ぶっちゃけありえない。無いよね。たぶん。 「……~~っ」 強く否定しきれない自分の思考に、耳まで真っ赤になってベッドの上をゴロゴロと転がる。 その仕種はまるっきり恋する乙女のそれだが、明日羽はまったく気付かず、ベッドから転げ落ちて顔面を強打した。 その時、控えめにドアをノックする音が聞こえてきた。 どすっという、妙な物音が明日羽の部屋から聞こえてきて、敏明はノックしようとしていた手を止めた。 まさかぬいぐるみなどを木刀でしばきたおしている音だろうか、という勝手な想像で回れ右しそうになるが、なんとか思いとどまる。 左手にはお茶と茶菓子を乗せたトレイ。お詫びの品を携えて改めて謝罪をするつもりだった。 そっとドアを二度叩く。 「は、はい!」 「敏明です。お茶を持ってきんだけど、どうかな?」 「あ、わ、す、少し待ってくれ!」 やたらと慌てた返事の後、バサバサと色々な物音が聞こえてきた。やっぱりぬいぐる木刀か。 静かになって、ドアの隙間から明日羽が顔を覗かせる。 「お茶か、いただこう」 いつも通りの様子でそう言って見せるが、 「センパイ、鼻が赤くなって……」 「なんでもない」 「けど」 「なんでもない」 「……おジャマしてもいい?」 「ああ……どうぞ」 明日羽の部屋はその居住まいに相応しく綺麗に整頓されていた。昨日運び込んだばかりのダンボールが折りたたまれて隅に積んであったが、たった一日で荷解きを終えているのがすごい。敏明などは未だにあけていない箱がある。 見回してみても木刀は見当たらない。そうか、素手か。 小さな折りたたみ式のちゃぶ台を挟んで、二つのクッションが向かいになるように置かれていた。 敏明はトレイをちゃぶ台に乗せ、クッションに浅く座る。 明日羽も同じように座ろうとして、何故か少し躊躇ってからクッションに乗らずに畳に直に座った。 なんだろうと思っている敏明の前で、彼女はクッションを拾い上げると、抱くようにして体育座りになる。 その時、敏明に電流走る……! (これはなに? ナンデスカコレハ!?) まさに『女の子』としか表現できない座り方だった。しかも何故か両手でクッションの端を弄って手遊びをしている。 昨日から同居しているとはいえ、敏明は普段の明日羽の姿をまだほとんど見てはいない。 日頃の言葉遣いや刀捌きなどからは想像も出来ないが、これが彼女の素という可能性もある。 だがあまりにもギャップが大きすぎて、敏明の思考はしばし、ざわ……ざわ……していた。 「あ、あの、センパイ?」 「なんだ?」 「さっきのことなんだけど……」 「さっき?」 聞き返した明日羽は表情を真顔から変化させることなく数秒沈黙し、それから急に頬を紅潮させた。ふいっと敏明から視線を外してそっぽを向き、クッションに火照った頬を埋める。 「気にしてない」 「でも……」 「それ以上その話をしないでくれ!」 「ハイ! スイマセン!」 (話をされるのも嫌なほど怒ってるのか……) そりゃそうだと納得しつつ、一応謝罪の言葉は口に出来たのでよしとして、敏明は別の話題を考えた。 「……昨日の子供、結局どうなったのかな」 風呂の中に寝ていた幼女は、明日羽が呼んだ学園関係者によって、敏明が気絶している間に連れて行かれた。家出にしろ迷子にしろ、双葉区内のことなら学園に任せれば大体は片付くはずだった。 明日羽はまだ頬を赤く染めたまま、少し眉尻を下げる。 「あれは、ただの子供ではなかった」 「え、どういうこと?」 「……昨晩、あの子供は……君から大量の魂源力を吸い上げていた」 「は?」 「それがどういうことなのかはよくわからないが、異能者なのは間違いないだろう」 「あんな子供が?」 「生まれたばかりの赤ん坊も異能を身に着けていれば皆、異能者だ。その力に目覚めるタイミングが少し違うだけでね」 「ふうん……それで、家にはちゃんと帰してもらえたのかな」 「いや、そうならそうと連絡があっていいはずだが、まだ何も言ってこないな」 「まあ、気が付いたらウチにいたわけだし、どこから来たのかわからないからなぁ」 今朝方、敏明の祖父でありこの家の持ち主である双葉管理にも電話で話をしてみたが、まったく心当たりがないということだった。 「すぐに家に帰れることを祈るばかりだ」 「そうだなぁ」 そこで話題が途切れ、二人は同時に湯飲みに手を伸ばす。 一口啜りほうと一息つき、茶菓子のアラレをぽりぽりとよく噛んで味わう。 (……ど、どうしよう) 敏明は何故だか無性に焦りだした。 とりあえず謝らなければと思ってお茶を持ってきたはいいが、それにほぼ失敗した上、これからどんな会話をすればいいのか、まったく思いつかない。 しかもよく考えると、個室で女子と二人きりという状況は、生まれて初めてかもしれない。巡理を除いて。 敏明はちらりと横目で明日羽を見やる。すると同じように明日羽も敏明を上目遣いで見ていた。 二人の視線が絡む。敏明はすぐさま目を逸らした。 (気まずすぎる! なんでもいいから話題! 話題!) 「センパイ」 「な、なんだっ?」 心なしか明日羽の声も裏返っていたようだが、それを気にする余裕も無く咄嗟に思いついた言葉を吐き出す。 「ええと、魂源力って何?」 出てきたのは、色気も何もない疑問だった。 「……難しい質問だな」 「難しい?」 明日羽の一転して低くなった声に、敏明も神妙に聞き返す。 「魂源力や異能というのは、科学的な研究が未発達な分野だ。学術的な意味では、未だに正体不明というのが魂源力に対する結論だね」 「つまり、よくわかってないってことか」 「有体にいえばそうなる。私は魂源力を見ることが出来るが……それでもわからないことも多い」 明日羽の瞳にぼんやりと薄青い光が灯る。 それが彼女の異能が発揮されている合図だと、敏明はすぐに気付いた。 「そこら中に、魂源力はある。薄かったり濃かったり、流れていたり滞っていたり様々だ。異能者やラルヴァが放つこともあるし、吸い取ることもある。たまに、異能とは関係ないような自然物なども魂源力を生み出したりもするが」 「うーん……聞けば聞くほど漠然としていく……」 「考えるな、感じるんだ」 「……はは」 「な、なんだい? その微妙な笑いは」 「ごめん。センパイからそんな古典が出てくるとは思わなくって」 「おかしかったかな……」 そういって苦笑を浮かべる明日羽を見て、敏明はまた声を出さずに笑う。 そうして笑っていると、なぜかさっきまで喉の奥に詰まっていた言葉が自然と流れ出てくる。 「センパイ、漫画読むんだよね? 最近はどんなの読んでるの」 「いや、あまり最近は……そんなに色々と読むほうでもないんだ。金銭的な意味でも厳しいし」 「そうなんだ。俺のオススメでよければ貸そうか?」 「いいのかい? どんなのがあるのかな」 「たくさんあるよ、ジョジョ全巻とか。ハンター×ハンター……は実家に置いてきちゃったか」 「あれは完結したのかい?」 「さあ……たぶん、した……んじゃないかな」 その後、二人は敏明の部屋に移ってしばらく漫画談義に花を咲かせていた。 巡理が夕飯の支度が出来たと呼びに来るまで、二人の話は続いた。 リビングに出ると同時、敏明と明日羽は衝撃に襲われた。 まず鼻を直撃する芳香。そしてテーブルの上の鮮やかな彩り。 そこには麻婆豆腐やエビチリ、チンジャオロースといった日本人に愛されている中華料理が並んでいた。 マーボー豆腐はぷるんとした食感が見た目からも伝わるほどつやめき、山椒の香りが立ち上っている。 エビチリもごろりとした海老によく餡が絡まっていた。 チンジャオロースはプロの技かと思うほど細く刻まれ、ピーマンの鮮やかな緑が油で照り光っている。 どの料理も見た目や香りから、一般家庭でよく使われる丸味屋や味の素の中華料理の素ではないことがわかった。きちんと別個の調味料で巡理が味付けしているのだ。 「なんだ、やけに豪華だな。気合いはいりすぎじゃないか?」 「そんなことないよー」 簡単に言ってのける巡理の額には玉の汗が浮いていた。Tシャツがちょっと汗で張り付いていてセクシーになっていたりするが敏明は気付いただけで特に何も言わずテーブルに向かった。 「今日は何かお祝いかい? 誰かの誕生日とか」 「ううん、普通に作ってみただけだよ。食べ盛りが四人もいるしね」 巡理の言葉に、敏明と明日羽は顔を見合わせた。 「そういえば、昨日また一人来てたな」 「ああ、私もまだ詳しいことは聞いていなかったんだが」 「高田春亜ちゃん、中学一年生だよ」 「ちゅういち!?」 敏明は叫びつつ、昨晩風呂場で出会った女性を思い出す。あの後ろくに話をする間もなく気絶し、朝になったら春亜はすでに家を出た後だった。 記憶に残っているのは金髪と見事なおっぱいだけだ。 「……なに、トッシー?」 つい巡理の胸元を見ていると、低い声で訊ねられ、なんでもないとだけ答えた。 やっぱ犯罪になんのかなぁと思いつつ、三歳下の少女に護衛される自分ってなんだろうという疑問についてしばし思考を巡らせる。 「もう帰ってきてるのか?」 「うん、さっきお風呂あがってきたからすぐ来ると思うよ」 と、そのとき廊下から鼻歌と足音が近付いてきた。 「ごっはん、ごはーん♪」 「噂をすればなんとやらだな」 みんなが注目する中リビングに現れた春亜は、バスタオル一枚巻いただけの姿だった。 「なっ」 「お、おいしそー。何? 今日ってパーティ? ひょっとしてアタシの歓迎会とか?」 「……あの、高田さん?」 「さん付けってなんかやだなぁ」 「……高田、服をちゃんと着てこい」 「えー、いーじゃんべっつにぃ。子供にヨクジョウするような変態さんがいるんならアレだけど」 春亜の言葉に敏明は反論しづらい。どんな言葉を使ったとしても、自分が変態だから危ないと言うようなものだ。 それを見かねたのか、単に気に入らなかったのか、明日羽が代わりに窘める。 「高田。女の子がそんな格好ではしたないぞ。食事のときにはきちんと服を着るものだ」 「むー、しょうがないなぁ」 言いつつ、いきなり体からバスタオルを剥ぎ取る春亜。 「なっ!」 瞬間、 「目が! 目があ!」 敏明の右目を明日羽の手が、左目を巡理の手が見事に塞いでいた。どちらも勢い余って指先が少し目潰し入っている。 「おおお……二度ネタもダメだと思う……」 「あっはっはっは、何してるのおネエちゃんたち」 苦しむ敏明を見ながらケラケラと笑う春亜は、チューブトップにホットパンツといういでたちだった。バスタオルの下にちゃんと服を着ていたのだ。 「紛らわしいことを……」 「いやぁ、面白いね。気に入っちゃったよ、とっしーのこと」 「とっしー言うな。つか危ないから自重してくれ、いろんな意味で」 「ジチョウってなに? おいしい?」 がっくりとうなだれる敏明を尻目に、春亜はさっさと席に座る。 「いただきま~す」 勢い良くおかずを頬張り、白米をぱくぱくと口に放りこんでいく。 その食べっぷりに毒気を抜かれた敏明たちは、同じように食卓に座っていただきますと唱和した。 夕餉の味は抜群だった。 なんかラルヴァとか異能とかどんどん遠ざかってるような……次あたりバトらないかんかな。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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魔女式航空研究部 通称「魔女研」 5年ほど前に航空研究部から派生して生まれた、「魔女」で構成された集団 新人五人合わせても15名の部活だが、珍しい飛行能力者ということで学園側からの援助も大きい とはいえ基本は身一つで飛ぶ魔女なので、広い部室や更衣室、トレーニング機器といった方面に予算は使われている オカルトチックな印象とは裏腹に活動内容は体育会系。基礎体力作りはみっちり仕込まれる 日々の活動は体力作りと飛行訓練に座学。航空支援という立場からちょくちょく他の異能者への協力にかり出されているので全員が揃うことは少ない 恋愛は自由。むしろ交遊は積極的に広めることが部の方針 基本的に体育会系部活動のノリなので結束は硬い 異能としての魔女 異能の発現に特定のアイテムを必要とする「条件付き発動タイプ」の飛行能力 帚に跨がることによって力場を形成し、それごと重力や慣性をある程度無視して空を飛ぶ 魔女の異能は分類すると、超能力系の念動力にあてはまる。いわゆる魔術とは別のもの【異能力研究室4】を参照 未発達な飛行能力の発現をアイテムを使用することによって制御している 誰でも知っている「帚にまたがって飛ぶ魔女」のイメージがその条件付けの鍵 ぶっちゃけ思い込みによって曖昧だった異能を、出来ることを明確にして制限しようというもの 歓迎会で派手なパフォーマンスをするのもそのため。こんなことができるようになるんだよ、と手本を見せて「洗脳」する 帚も三角帽子もマントもかたちから入るためのツール。魔力という言葉もイメージのために使っているだけ。「魔女の宅急便」は必見資料 特にその辺りの技術は本物の魔女である柊キリエの得意分野。雰囲気作り、プラシーボや催眠といったことは魔術の範疇 当人達もその辺はちゃんと知っているが、それでも自分達を誇りをもって「魔女」と名乗る 飛行性能については個人差が大きく、高速飛行特化もいれば重量制限なし(帚に乗れるだけという条件はある)という輸送型もいる 飛行時には光の尾をひいて飛ぶが、それは魂源力の光で資質のある者にしか見えない。その色が違うのには個人差があるが特に理由はない 超音速で飛行できるのは現在部長と副部長の柊キリエの二名だけ(瀬野葉月は一度だけ成功している) 平均的な魔女の場合、単独飛行で巡航速度は500キロ。遅い者でも300キロは出せる 魔女になるための条件 『未発達な飛行能力者であること』 魔女研の創立目的が、当時複数いた制御困難な飛行能力を持つ少女達の救済が目的であったことから きちんと飛べるのなら魔女になる必要もない 『女性であること』 魔女はイメージの固定化、思い込み、刷り込みによって異能を制御することから、帚に乗って飛ぶ=魔女=女性というかたちを維持するため イマジネーションが豊富で柔軟性が高いのであれば男の魔女もアリだが、今の所条件が揃う者は現れていない 新人魔女五名 この春に双葉学園に編入してきたばかり コールサインは光の尾の色から。一時的につけられたものだが、その後も継続して使用されることがある ※葉月以外は下記程度の設定のみ。名無しキャラは基本的に設定作成解放対象 レッド 瀬野葉月 現役魔女に並ぶ飛行能力。一度だけ超音速に成功している ツンデレ 巨乳 グリーン 不安定。バランス型なので慣れればのびるタイプ 委員長系で苦労をしょいこむがニコニコと笑ってこなすタイプ 並乳 ゴールド 旋回が苦手。直角カーブはある意味凄い才能かも お調子者。ムードメーカー 並乳 パープル 加速が遅い。臆病さからか動きが少し遅れる ややおっとり系。口調は丁寧 二番目の巨乳 ブルー 一番遅い。安定感と搭載量は一番高い 無口系。ちびっ子 無乳 葉月がツンデレで孤高を保っていたように見えるが、結局のところ普通の仲良しグループ 今では五人の中では葉月がいじられキャラとしての地位を確立している。四人からすると「ああもう可愛いなぁこのツンデレは」ということらしい シェアについて 部長含めた残り9名については、部長がキリエの親友で超音速飛行が可能という以外はまったくの未設定 一応、それぞれ現役魔女として活躍中であり、学園の防空任務や各地に派遣される生徒の航空支援などで活躍しているということになっている 名無しキャラは基本的に設定作成解放対象 自作品に都合良く使える魔女が欲しいなぁという方は、新人四名に名前をつけたり、新しいキャラを作ってしまって下さい 柊キリエの本物の魔女について 飛行能力者としての「魔女」を設定するにあたり、術者としての魔女、魔術師を否定しているわけではないという意思表示の意味合いを込めての設定です 異能者というより「古来から存在する技術継承者」といった存在で、実際には作中では雰囲気づくりの舞台装置以上とするつもりはありません 「異能者の魔女ってどういう経緯で生まれたんだろう?」というネタに対して 何かに跨がって飛ぶ飛行能力者が本物の魔女というキリエに声をかけたことから始まった、というものでそれが現在の魔女研の部長であるとかの構想です ●魔女研部長 福部長 (モブキャラページに登録すべきものですが、作中に登場していない部分でもあるため、こちらに記載とします) 椎名レイ(しいな・れい) 18歳 女 高等部三年生 身長170センチ 黒髪のロング 魔女研部長 中等部進級直後、現在の親友であるキリエと二人で魔女研を立ち上げた 初等部時代は珍しい飛行能力者ということで航空研に所属していたが、飛行能力をコントロールできない少女達をどうにかできないかという学園側からの依頼を機に独立 キリエとは対照的に物事を感覚的に捉え、計算より感情で動く姉御肌。何事も周囲を巻き込んで大事にするが、終わってみれば最善の結果がでていたというタイプ 興味のあることへの執着は強いが、それ以外のことには怠惰。身内は大事にするが他は割とどうでもいいという厄介な性格 使い勝手の良い飛行能力者である『魔女』が、どこかの部署に取込まれて便利に使われるようなことがないのはレイとキリエの強い身内意識のおかげ とはいえ基本はお祭り騒ぎが大好きなので、魔女研にイベントへの協力を求めればきちんとした内容であれば快く応じる 異能は「何かに乗って飛行する」というもの 『魔女』になる前は自転車やバイク、サーフボードからはては軽自動車に乗って飛行していた。現在は帚に乗るスタイルに限定しているが、能力的には変わらず制限はない 光の尾は銀色。魔女研の魔女たちは全てレイの飛行能力をベースとして作り上げた「魔女式航空術」というもの 感情によるムラっけがあるものの、ダントツの飛行性能と天才的なひらめきによる優れた飛行テクニックの持ち主 自分の帚に「銀星号」という名前をつけている 初等部までは普通の身長だったのだが『魔女』になってからはすくすくと成長し、今ではモデル並みのスタイルと長身でキリエと並ぶと非常に絵になる そのおかけで「胸の大きさが魔力の強さに関係がある」という説が生まれているほど 年下の幼馴染みと交際中。よって久世空太と瀬野葉月の歳の差カップルを応援しつつ煽っている 柊キリエ(ひいらぎ・きりえ) 18歳 女 高等部三年生 身長182センチ 銀髪のベリーショート 碧眼 眼鏡 魔女研副部長 中等部入学と同時に転校してきてすぐに、現在の親友であるレイに声をかけられふたりで魔女研を立ち上げた 一見取っ付きにくそうなクールビューティに見えて、実は面倒見がよく交友関係も広い スパルタ教育だが弟子達をこよなく愛する。部員の育成と心身のケア担当 物事ははっきり喋るが私生活は隠す方。下級生の同性からはモテまくる質 遠野彼方との関係を訊かれると「さて、どうだろうな?」とニヤリと笑って誤魔化すような人 本物の魔女 魔女研の他の魔女たちと違って魔術で飛行するため、光の尾はない 魔女の宅急便のお母さんのように薬作ってたり家庭菜園でハーブ育てたり近所のお婆ちゃん達とお茶会やってたり、後輩からの恋愛相談を受けたりする地域密着型のんびり系魔女 薬学や魔術的知識を身につけているが(双葉学園ルールに従い)どれも超常的な効果を発揮するものではない。きちんと学べば誰でも習得できる技術の範囲。あくまで魔術によって空を飛ぶというのが異能 使い魔に黒猫がいるが、これも魔術的な繋がりをもっていない(あるいは『魔女の使い魔』というラルヴァか)。実質はただの猫でペット扱い レイが魔女研の父、キリエが母といったところ 「キリエは厳しすぎるのよ。もうちょっと優しくしてもいいんじゃない?」 「レイがいい加減すぎるんだ。放任を優しさと勘違いするな。ワタシはちゃんと優しいぞ?」 「なんだかお二人の会話って夫婦の子育てみたいですね」 敵を前にして、レイはまずぶっとばす。キリエは用意周到にとどめを刺すタイプ 「ふふん、おっかしいの。うちの子にちょっかいかけた奴らを許すと思ってるの? ワタシはやるからには徹底的にやるのよ」 「私は仲間には厳しく、敵には敬意を払う。つまり戦うからには全力でやらせてもらうということだ」 (こえぇ。魔女研を敵にまわしたくはないなぁ) 「レイ……そろそろ仕事をして欲しいのだが。キミは部長なのだろう?」 「メンドくさい。部長の補佐をするのが副部長の役目でしょ? キリエやっといてよー」 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む 自分との闘い 今回の敵は手強い。 俺は太い木の陰に隠れ、じっと息をひそめた。 双葉学園にやってきてから、俺は今までたくさんのラルヴァと戦ってきた。俺の持つ異能は強力で、一撃必殺の光の矢を放つこと。その能力のおかげで俺はこれまで負け知らずで、大怪我も負ったこともない。俺は強い。矢の出力を最大にすればダイヤモンドの塊だって簡単に吹き飛ばせる。これは驕りではなく事実だ。 だが、その自信も今や風前の灯になっていた。 もうかれこれ三時間はこの森の中で奴と戦っている。 そいつは突然どこからか現れ、いきなり俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。初撃を避けられたのは奇跡だ。 双葉学園の任務で、俺はS県のある山に来ていた。そこで目撃されている正体不明のラルヴァを倒すため、非戦闘員も含めて十数人の人間がこの森に導入された。だが俺以外の生徒や、プロの異能者、連絡員、救護班も全員消えてしまった。だが普通に考えてはぐれたのは彼らではなく俺のほうだ。おそらく他の連中から引き離され、一対一の勝負を挑まれたのだ。 しかし、ただのラルヴァが相手ならこんなにも苦戦することは無かっただろう。 俺の目の前に現れたそいつは、“俺”だった。 まったく同じ姿をした|俺自身《、、、》だ。 いったい何を言っているんだと思われるだろう。だが俺は見たままを言っているだけだ。そいつはまるで鏡合わせのように自分にそっくりだった。いや、鏡合わせなら左右反対になるはずだが、そいつはほくろの位置も完璧に一緒だ。 推測するならば、それは俺の姿をコピーしたラルヴァだろう。ドッペルゲンガーと呼ばれる人間の姿を真似るラルヴァはすでに確認されている。ならばその亜種としてこのようなラルヴァがいても不思議じゃない。 だが厄介なのは、そいつは姿だけではなく、俺の能力と戦闘センスもすべてコピーしているということだ。だが幸い、奴のコピーが完璧なおかげで自分自身の思考を読むことで、相手の行動を推測することができる。だがそれは向こうも同じなのだろう、そのせいで三時間も拮抗状態が続いてしまっているのだ。 長期戦になれば俺のほうが不利かもしれない。たとえ奴が自分と同じ体力だとしても、精神力に違いは出るだろう。人間の集中力には限りがある。だがラルヴァがそうとは限らない。それに空腹、睡眠、排便。人間の体は不便にできている。戦いが長引けば長引くほど、俺の負ける確率は高まる。 決着をつけるならばこのタイミングしかない。 最後になるかもしれないと思い、俺は空に輝く満月を見た。とても綺麗に輝いていて、気分が高揚してくる。 俺は魂源力《アツィルト》を掌に集中させる。体中の魂源力を凝縮させ、凄まじいエネルギーを秘めた光の矢へと変換していく。木から顔を出し、森を見渡すと、前方にこの矢と同じ光を放っているのが見えた。どうやら奴も光の矢を作り出しているようだった。 俺はわざと光の矢の輝きを強くした。 そうすることで奴に俺の居場所を伝えるのだ。 なぜそんなことをするかって? 気が狂ったわけじゃないぜ、奴をおびき出して隙を突くのだ。 すると向こう側の光が一瞬激しく輝いたと思うと、無数の光の矢が前方から飛んできた。その直撃を受けぬよう俺は体を屈めながら前方へ走っていく。奴が放つ光の矢は、周りの木々を吹き飛ばし、爆風がおれの背を押していく。舞い散った土や泥が体に降り注ぐがそんなことは構っていられない。しばらく走ると、ようやく奴の姿を再び拝むことができた。 「くたばれ偽者! 俺は最強の戦士だ、誰にも負けない。自分自身にも!」 虚ろな目をした間抜け顔。俺の顔がそこにあった。俺は矢のエネルギーを圧縮し、奴に照準を定める。 だがなぜか奴はもう攻撃をやめていた。 だらんと力なく肩を下ろし、諦めたように俺のほうを見つめている。情けない顔は最強の俺には相応しくない顔だった。 俺だったらどんな状況でも生きることを諦めない。 絶対に敵を仕留める。 情けもかけないし、容赦もしない。いや、もう矢は俺の手から離れ、奴のほうへと飛んでいっている。もう攻撃を止めることはできない。 光の矢は高速で奴の体を貫いた。その瞬間奴の体は弾け、赤い血が四方に飛び散る。まるで人間と同じような赤い血。自分と同じ姿をしたものが肉塊へと変わっていく様を見るのはなんとも言えない後味の悪さがあった。 その直後、激しい光が俺を包み、気がつくと森の入口へと戻っていた。 声が聞こえる。 振り返ると心配そうな顔をして、学園の仲間たちが俺のほうへと駆け寄ってきていた。やはり予想通りはぐれていたのは俺のほうだったようだ。安心して思わずその場にへたり込んでしまった。疲れた。もう一歩も動けない。 俺は今回も生き延びた。 俺は強い。誰にも負けない。 自分自身をも乗り越えた。 今回の事件を経て、俺は一回り成長できた気がする。 それから約一ヶ月後。 俺は再びこの森へと足を踏み入れた。 「この森には正体不明の強力な磁場が発生しているようで、時間の断層のようなものができているようだ。そのため迷いの森へとなってしまっている。その調査に向かってほしい」 そんな任務を受け、俺はこの因縁の地へとやってきたのだ。 いったい何が待ち受けているのかわからない危険な任務だが、自らこの任務に参加を決めた。 なぜだがわからないが俺はここにこなければならない気がしたからだ。 俺自身と戦った、記憶に残る場所だからというだけではないような気がする。 しばらく森の中を歩いていると、あの時と同じようにほかの調査班のメンバーと別れてしまった。 だが予想通りだ。ここまでは前と同じだ。 この森の奇妙な空気感、一ヶ月と何一つ変わらない。ざわざわと鳥肌が立つ感覚。全身の皮膚の触角が研ぎ澄まされていく。 そして、俺は森の中にまたもありえないものを見た。 また、そこには“俺”がいた。 生きていたのか。それともまた別の個体か。俺の姿をコピーしたラルヴァ。そいつが数メートル先で歩いているのが見えた。不思議なことに 奴は俺に気づいていない。これはチャンスだ。 前回は先手を取られたが、今回は初撃で総てを決めてやる。 俺は掌にエネルギーを圧縮し、光の矢を生成する。だが、その一瞬の光で奴は俺のほうに気づいた。そしてとっさに跳躍し、矢を避ける。さすがは俺のコピー。ナイスな判断力だ。 その刹那、俺と奴の視線が交差する。 それすらもあの時の再現のようだった。 奴は俺のほうへ矢を放ちながら距離をとって後退していき、森の闇の中へと消えていった。だけど逃がすものか。一度は勝てたんだ。今回も倒してやる。 それから三時間ほど攻防が続いた。 一度倒したとは言え、やはり自分自身が相手となると一筋縄ではいかない。 ふうっと岩に腰を下ろしながら俺は一息つく。ふと上を見上げると、月が真上にあった。おかしい。この森に入った時にはもう月は落ちかけていた。時間的にそろそろ夜が明けてくるはずだ。 そう不思議に思い首を捻っていると、数十メートル前方から、激しい光が漏れているのが見えた。 間違いなく光の矢の輝きだ。馬鹿め、自分から居場所を教えているようなものだ。 エネルギーの出力を抑え、俺は光の矢を複数生成する。下手な鉄砲も数撃てば当たるはずだ。これは前回倒した偽者がしていたことの真似だ。まったく、偽者の技術を本物が真似るなんて皮肉なものだが、生き残るためならそんなことは気にしていられない。 奴がいるであろう場所へ、俺は無数の光の矢を放つ。 木々が吹き飛び、土が舞い上がっていく。だが驚いたことに奴は光の矢を避けながらこっちへと向かってきていた。 俺は素早く光の矢を作り出し、奴へと照準を合わせる。 だが、向かってくる奴を見て、俺は奇妙な|既視感《デジャブ》を覚えた。 この状況、どこかで見たことがある。 まてまて、これはこれはどういうことだ。 そう頭の中で考えているうちに、奴はもう俺の前に迫っていた。奴はエネルギーの凝縮された光の矢を俺のほうへと向けている。 「くたばれ偽者! 俺は最強の戦士だ、誰にも負けない。自分自身にも!」 奴はそう叫んだ。 俺とまったく同じ声で。あの時の俺と同じセリフを吐いた。その燃えたぎるような熱い目は、間違いなく俺自身のそれであった。 そのわずかな一瞬の間に頭の中である仮説が浮かび上がる。 時間の断層がある森。そう、ここは時間がズレた場所なのだ。 この森で目撃されてきたラルヴァの正体。 俺が今戦っている敵が何者なのか。 いや、一《、》ヶ《、》月《、》前《、》に《、》俺《、》が《、》戦《、》っ《、》て《、》い《、》た《、》敵《、》が《、》何《、》者《、》だ《、》っ《、》た《、》の《、》か《、》、俺はすべてを理解した。 (了) トップに戻る 作品保管庫に戻る
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作品をラノ読む 「働け、いつもお前は。そうだ働け、死ぬまで働け」 ――――筋肉少女帯〈労働者M〉 今日は楽しい双葉学園の文化祭。 大学生から小学一年生までみんなが参加する、年に一度のお祭りさわぎ。生徒たちがクラスで店を開いたり、何かを発表したりと大忙しだ。 ぱんぱんと花火が鳴り響き、今学園はいつも以上の賑やかさで溢れている。 学園のいたるところで出店が開いていて、その数はもはや手足の指を使っても数え切れないほどであろう。 その双葉学園の大きな中庭でも出店はいくつも並んでいる。ここは人通りが多く、店を出している人にはなかなか稼げる場所だという。事実たくさんの生徒たちがここで様々な店に立ち寄っている。 その一角に奇妙な四人組みがそれぞれ店を構えて座っていた。 「レイダーさん。ぼくたち一体なにしてるんですかね……」 その一人、長い前髪で片目を隠している少年アークジェットがそう溜息を漏らす。彼は双葉学園の制服を着ているためここの生徒であろうことはわかった。 「これも任務の一環だ。サボることは許さないぞジェット。ギガフレア、お前も今日はきちんと労働に勤しむんだ」 その隣に座っているのは髪を七三わけにして、いかにも生真面目そうな若い男であった。彼はレイダーマン、本名不明年齢不詳住所不定のどこでもコックである。 「そうは言うがなレイダー。僕は働いたら負けだと思っている。五月に一回死んでコンテニューしてわかったよ。人間死ぬ時は死ぬ。だからバカみたいに疲れるようなことなんてしたくねーわけよ」 そう息巻くのはギガフレアという少年であった。彼はぴこぴこと携帯ゲームをいじっていて、まるで接客をする気がないようである。というかそもそも彼はもう店を開く人間とはとても思えない格好をしていたのだ。 バカらしいことにギガフレアは馬の面の被り物ですっぽりと顔を隠してしまっていた。身体は学ランのため酷く不恰好で滑稽に見える。ある種の不気味ささえ感じてしまう。こんな格好をしていたら誰も客などこないであろう。 「ギガ……突っ込んでいいのかわからなかったがもう我慢できない。お前そのお面はなんなんだ!」 「しょうがないだろレイダー。僕だって好きでつけてるわけじゃねーよ! 僕が殺し屋って学園側に割れてるんだからこうして顔隠すしかないだろう。連中は僕のことを死んでると思っているんだからよ」 「それにしてもよくそんなお面つけてゲームできるねギガフレア。前見にくくないかい?」 ジェットは呆れながらギガフレアにそう尋ねた。 「僕を誰だと思っている。名人も真っ青のゲームマスターギガフレアだ。目を瞑っててもスーパーマリオをノーミスでクリアできるね」 「本当かよ」 「本当だとも。ゼビウスのバキュラだって破壊できるぞ!」 「……いやさすがにそれは無理だろ! バキュラに256発当てると倒せるってのはデマだから! ぼくも騙されたけど!」 「ちなみに水晶の龍《ドラゴン》でも野球拳に勝利して――」 「だからそれもデマだから! ぼくも騙されたけど!」 二人がそんなやりとりをしていると、きゃっきゃっとジェットの左隣に店を構える女の子が笑った。 「な、なんだよヴェイプ。何笑ってんだ?」 「えへへ、べっつに~。ギーちゃんとジェットって仲いいなーっと思って」 その少女は屈託の無い笑顔を彼らに向けた。その彼女の笑顔はとても可愛らしいもので、恐らくそんな趣味の無い人間でも少しぐっと来てしまうのではないだろうかと思うほどに可憐だった。 彼女の名はヴェイパー・ノック。仲間からはヴェイプという愛称で呼ばれている十歳ほどの女の子だ。ウサギの耳がついたパーカーを着込み、丈の短いスカートがちらちらと風に揺らめいて目のやり場に困ってしまう。 「なんだよそれー」 「ふん、僕は別に誰とも仲良くなる気なんてないね。こんな根暗っぽいキタローヘアーと友達と思われたくないぞ」 「根暗ってギガフレアに言われたくないよ! このオタメガネ!!」 「うるさい超シスコン!」 ぎりぎりと二人は睨みあったが、二人とも同時に「ふう」っと溜息をついた。 「やめようギガフレア。不毛だ。それより今は稼ぐことを考えないと」 「ったくこうも苛々すんのは全部カオスのせいだ」 彼ら四人はとある組織に所属していた。 その名もラルヴァ信仰団体“|聖痕《スティグマ》”である。彼らはその組織の殺し屋としてこの双葉学園に潜入しているのだ。 そんな殺し屋のはずの彼らがこうして店を構えているのにはわけがあった。彼らの上司である|這い寄る混沌《クローリング・カオス》という名の男からの命令があったのである。 ジェットはうんざりしながらカオスの言葉を思い出していた。 『いいかお前たち。今回の任務は資金集めだ。双葉学園の文化祭で稼いで来い。一番稼いだ奴は給料上げてやる。以上』 と言った具合である。なんとも簡素でそっけないが、いつものことなので彼らは諦めていた。まったくここはなんてブラック会社(?)だ、ぼくはもう限界かもしれない、とジェットは思った。 「なーんで僕たち殺し屋がそんな資金稼ぎしなきゃならんのだ。しかもこんな文化祭で」 「文句を言うなギガ。カオス様には何か考えがあるのかもしれないぞ」 「んー。でもカオス様は結局何を考えてるのかわっかんないよねー。というかカオス様って本当に人間なのかわかんないし」 「まあ命令なんだからしょうがないか。ぼくだって本当はクラスメイトと学園回りたかったんだけどさー。命令じゃあしょうがない」 「見栄はるなよジェット。お前みたいな根暗シスコンキタローヘアーに友達ができるわけがない。よかったじゃねーか文化祭で友達もおらず視聴覚室で一人ぽつんと映画鑑賞を延々とするよりは」 「なんだその妙にリアルな例え話は。誰かの体験談かよ! 寂しすぎるよ!」 しかし実際にジェットはクラスに友達が一人もいなかった。少し話す程度の仲である斯波涼一という生徒は恋人と学園を回っているようで、置いてきぼりを食らったのであった。こうして命令をこなすといういい訳ができてジェットは内心ほっとしていたのかもしれない。 「さあ、昼近くなってきたし、客も多くなる。お前たちも気を引き締めてやるんだぞ」 レイダーマンは他の三人にそう言い、店の準備を始めていく。 ジェットもギガフレアもヴェイプも、自分の店を開く。 彼ら四人の看板にはそれぞれこう書かれている。 ジェットは『びっくり電気人間! 電気に繋げず電球が光る!!』。 ギガフレアは『僕に勝ったら賞金一万! ゲーム対戦』。 レイダーマンは『世界の味がここに、最高三ツ星コックによる高級フランス料理』。 そしてヴェイプはシンプルに『チョコバナナ』と書かれている。 「おいなんだよジェット。お前何するんだよそれ」 ギガフレアはぷっとジェットの用意したものを見て笑った。彼の店には電球が一個置いてあるだけであった。 「何って、ぼくが子供の頃姉さんと祭りに行ったときにこういうのやってたんだよ。見世物の一種だね。ほら、こうやって――」 ジェットが電球に手を触れると、その電球が大きく輝き出したのである。どこにも電気は繋がっていないはずなのに電球は光り続けている。これは種も仕掛けも無い、なぜならジェットは体内電気を操る能力を持っているからである。電気を放電することは不可能でも、こうして直接手に触れれば電球程度なら電気を通すことが可能なのであった。 「凄いだろ。これ昔見たときは魔法かなんかかと思ってたけど、自分が出来るようになるとは思わなかったね。あの時の見世物小屋のおじさんも異能者だったのかもしれないけどさ」 ジェットは自慢げにそう語っていたが、ギガフレアは呆れたように馬のマスクから溜息をわざとらしく大きく漏らす。 「お前、ここが双葉学園ってこと忘れてないか。たかが電球光らせただけで驚く奴なんているかよバーカ」 その言葉を聞いてジェットは大きなショックを受けた。確かに電気系の能力者など大して珍しくも無く、どちらかと言えばジェットの電気能力はかなりへぼいのである。そんな平凡な見世物で客が来るとはとても思えなかった。 ジェットは自分の選択ミスに気づき、膝を抱えて落ち込んでしまった。 「ふん、まったくジェットは浅はかだな。文化祭の出店と言えば食べ物屋こそ定番だろう。奇抜なものをやろうとしても大概すべるんだぞ」 レイダーマンは自身ありげにそう言った。 彼の店は仰々しく簡易性の厨房まで用意され、その場で食べられるようにテーブルも沢山用意されている。看板の通りにフランス料理を作るようで、既にコックの服装に着替えていた。なんともその姿が似合っていて、どうやら彼が元料理人というのは本当のようだ。 「はははは、飢えた学生たちの腹を至福で満たしてやるぞ!」 「おおー! レイちゃんカッコイイ!!」 ヴェイプは働く男の姿を見て感動したのか、ぱちぱちと手を叩いている。それにレイダーマンも気をよくしたようで、鼻が天狗のように伸びているのが見える。 「けっ、何がフランス料理だ。気取りやがって。なあジェット」 「ぼくもフランス料理食べたことないな、大抵姉さんの手料理だったし」 「ふふん。お前たちも金払うなら作ってやるぞ」 そんなレイダーマンに対しても、ギガフレアはまたもバカにしたように溜息を漏らした。それにカチンときたレイダーマンは彼を睨みつける。 「おいギガ。なんだそれは。俺の作戦は完璧だろう」 「それのが浅はかだっつーの。いいかレイダー。こういう文化祭で、フランス料理食べに来る学生なんてほとんどいねーよ」 「な、そんなバカな! フルコースでたった五万の激安価格だぞ!! この俺の料理は本来十万以上からなんだ、そりゃもう行列ができるだろう!」 「どこがだよ! 文化祭の出店に五万払ってフルコース食う奴なんているかよ! 少しは考えろっての! ほれ見てみろアレ」 ギガフレアは彼の店に寄ってきた女子二人組みを指差した。中等部のようで、きゃぴきゃぴと可愛らしくはしゃいでいる。実に健全である。 彼女達二人は価格を見て、 「なにこれフランス料理のフルコース?」 「げっ。五万円だって。ありえなーい」 「だいたいこのメニュー読めないし」 「フランス語? わかんないよねー」 「それよりあっちおいしそうな中華料理の屋台があるって」 「ああ知ってる、肉なしのヘルシーなチャーハンが人気の奴だよね」 「そっちいこーよ」 「うん、行こう!」 と、彼女達はレイダーマンの店を素通りしてしまった。その反応を見てレイダーマンはがっくりと肩を落とす。 「な、なんてことだ。やはりガキ共には俺の料理は理解できないのか……」 「いや、そういう問題じゃないと思うぞ」 「あはは、レイちゃん気を落とさないで。レイちゃんの料理が天下一品なのは知ってるよ!ただちょっと考えが足りなかっただけだよ!」 と、ヴェイプの無邪気な言葉に止めを刺され、レイダーマンは現実逃避をするようにタマネギの皮を延々と剥き始めた。 「はは、タマネギ剥いてたら涙が出てきたぜ。あれ、剥いてたら無くなっちゃった。俺の人生みたいだ。はははは」 「レイダーさん……」 ジェットは自分と同じく失敗した者に同情の目を向ける。そんな彼ら二人をギガフレアは馬のマスクの上からでもわかるほどに笑っていた。 「ちくしょー。ギガフレア、お前こそなんだよその店! ふざけてんのかよ!!」 ジェットはギガフレアの店に目をやる。 彼のいる店にはテレビとゲーム機が置かれていた。そのゲーム機は凄まじく古いもので、ところどころ黄ばんでいる。白と赤のデザインで、カセットを差し込むタイプのゲーム機である。どうやら看板の通りにゲーム勝負をして勝ったら賞金というものらしい。ただし負ければ挑戦料五百円をとられるようだ。 「これは案外いい発想だろう。テレビもゲーム機も自前だから元値がかかってはいないし、僕がゲームで負けることなんてありえないからな! ふははははは!!」 ギガフレアは自身満々である。負けたら賞金一万円を払わなければならないというのはリスキーだと思うのだが、確かにギガフレアがゲームで負けるとは思えない。悔しいがジェットは彼のやり方に感心してしまった。だが、とある疑問が頭に浮かぶ。 「でもギガフレア。そのテレビとゲーム機の電気はどうするんだ。コンセントなんてどうやって繋ぐんだよ」 「………………あ」 ギガフレアはそんな小さな声を発した。どうやらそのことまで頭にいってなかったようである。なんとも間抜けな話である。電気が通わなければテレビもゲーム機もただのかさばるガラクタでしかないのだ。 一瞬空気が凍るが、ギガフレアは何か策を思いついたように手をぽんっと叩き、コンセントを持って立ち上がった。 「どうするんだギガフレア。長いコンセント数珠繋ぎにして校舎から供給するって手もあるけど電気泥棒なんてすぐバレて追い出されちまうぞ」 「ふふふふ。大丈夫だジェット。僕のすぐ近くに電源はある」 「へー。どこに? バッテリーでも持ってるのか?」 「それはここだあああああああああ!」 「ふぎゃああああああああああああ!」 ギガフレアはそのコンセントをジェットの鼻の穴に思い切り突っ込んだ。ふがふがと苦しむジェットを尻目にギガフレアはテレビの電源スイッチを押す。するとなんということであろうか、テレビはちゃんと点いたのである。 「さすが万国びっくり電気人間。役に立つじゃないか」 「ほまへはなひをふるんだ!」 「ん~? 何を言っているかわからないなあ。お前は僕専用の電気製造機としてここに座ってろ! お前の見世物小屋も同時出来て一石二鳥だろ」 ギガフレアは高笑いして勝ち誇っていた。そんな彼はその隣のヴェイプの『チョコバナナ』と書かれた店を見てにやにやと笑っている。 「おいおいヴェイプ。チョコバナナ屋なんてそんな面白みのないのでいいのかよ。まあ他の二人に比べればマシだが、このままじゃ僕の完全勝利だね。これでカオスの野郎は僕のことを認めるに違いない。もう僕を雑魚キャラだなんて呼ばせないぞ!」 ヴェイプはにこにこと笑いギガフレアの挑発など気にしてはいないようである。 「えへへ。やっぱ出店と言ったらチョコバナナだよギーちゃん。私は勝ち負けなんてどーでもいいもーん。楽しければいいもーん」 ヴェイプはギガフレアに向かってべーっと舌を出した。確かに無邪気な彼女にとって勝ち負けなんてのは些細なことで、学校に通っていないからこのような学園規模のお祭り騒ぎというものに心躍っているのだろう。そう思ったジェットは後でヴェイプと一緒に学園を回ってみようと考えていた。だが、幼いヴェイプを連れまわす図というのは変な誤解を招きかねないのが難点だ。ジェットはシスコンであってもロリコンではない。と、信じたい。 彼ら四人がそうして店の準備を済ませると、どこからか下品な笑い声が聞こえてきた。ジェットたちが対角線上の店に目を向けると、そこには『射的屋』と看板に書かれた店にニット帽を目深に被り、円盤をじゃらじゃらとつけたジャケットを着込んでいる奇妙な格好をした男が、ギターを抱えてこちらを見ていた。 「おたくら景気はどうでっかー? ぼちぼちって感じやないのは顔みればわかるけども。はははは! ほんま辛気臭いで! ほれ、笑顔笑顔! 笑顔は客と福を呼ぶんやで~♪」 彼の姿を見て、レイダーマン、ギガフレア、ヴェイプの三人は反応を示した。 「スピンドル!」 「げっ、スピン!」 「スピンだ! 久しぶり~」 と、彼の名を呼んだ。ジェットは一人面識がなかったため、鼻にコンセントを突っ込んだまま呆然としていた。 「れ、レイダーさん。この芸人みたいな格好をした男は誰ですか?」 「お前は初めて会うのか。あいつは俺らと同じ聖痕の殺し屋――」 「黄金軸《スピニングスピンドル》のスピンドルくんや。あんたが噂の新入りやな。よろしゅうしてや。その鼻のコンセントはお洒落かいな、おもろい新入りやのう、こりゃ俺も負けてられへんわ。はははは!」 スピンドルは笑いながらフォークギターをぼろろろんと鳴らしている。妙にテンションの高い男を前にジェットはただ唖然とするしかなかった。ギガフレアもうんざりとした顔をしている。彼らにとってスピンドルのようなこてこての芸人タイプはやはり苦手のようだ。 「おいスピン。お前はここで何をしている。ついに殺し屋やめてカタギにでもなったのか?」 ギガフレアは苛々しながら皮肉を込めてそうスピンドルに尋ねた。 「アホぬかしいな。殺し屋は俺の天職やで。こんなところで店開いとんのはおたくらと同じ理由や」 「同じ理由?」 「そう、おたくらの上司のあの顔の覚えられへん影のうっす―――――――――いおっさん、名前なんやったっけ? フローリング……バブルス?」 「もはや原型留めてねえ! そんな海外版はともかくマイナーな国産版のアニメのキャラ名なんて誰も知らんわ!! クローリング・カオスだ、クローリング・カオス!」 「そうそうそのカオスのおっさんから『お前も稼いでこい』って言われたんや。給料アップも嬉しいんやけど、それ以上に勝負となれば血がたぎるのが関西人の性や! 負けへんで」 「お前関西人じゃないだろ。このエセ関西弁」 「細かいこと言うなや~。ギーはもうちょいカルシウムとったほうがええでほんま」 「うるせえ! ああもうこいつは本当に調子狂うぜ」 ギガフレアは諦めたように店のイスに腰を下ろした。 すると、ヴェイプがぴょんぴょんと小さな身体を跳ねさせながらスピンドルの射的の景品に興味を示していた。 「ねえねえスピン! それちょうだいよ、その熊のぬいぐるみー!」 景品には大小さまざまなものがあったが、ヴェイプの視線の先には大きな可愛い熊のぬいぐるみが置かれていた。だがその大きさはどう考えても射的の弾で落とせるものとは思えない。 「いんちきじゃねえか!」 と、ギガフレアは真っ当な指摘をする。だがスピンドルはぴーぴーと口笛を吹き、そっぽを向いて聞こえないふりをしていた。 「言いがかりはやめてくれや。ちゃんと落としたものは景品として持って帰ってもらうんや。ただし、落とせたらの話やけどな!」 「げ、外道~!」 四人はスピンドルのせこさに呆れていたが、射的屋というのは基本的なお祭りの出店で、ある程度の需要は確保できるため恐らく稼ぎはそこそこいくだろう。スピンドルは余裕の表情で「ボインはぁ~赤ちゃんが吸うためにあるんやでぇ~♪ お父ちゃんのもんとちがうのんやでぇ~♪」などと歌いながらギターを弾いている。 「うー! その熊ちゃん欲しい! 欲しい!」 ヴェイプは目を輝かせながらスピンドルの射的屋まで足を運んでいた。どうやら相当その熊のぬいぐるみが気に入っているようである。 「駄目やでヴェイプ。ちゃーんとお金払って撃ち落さないとあかんでー。まあ、がんばりやー」 ヴェイプは射的代三百円を払って射的の銃を向けて撃つが、かすりもしなかった。いや、たとえ全弾命中してもあのぬいぐるみは落とせないであろう。半泣き状態になっているが「そんな顔しても駄目や。ルールはルール! 規則は守らないとお母ちゃん怒るで!」と、スピンドルは笑っていた。 「おとなげねー」 「うっさい! こっちも商売や、情け無用!」 スピンドルは扇子を広げて自分の顔を扇ぎ、はははと豪快に笑っていた。ヴェイプは諦めたようで、自分の店に戻ろうとしたところ、彼女の前に一人の女生徒が現れたのであった。 その少女は長いポニーテイルに、凛々しい顔立ちをしていて、その腕には『風紀委員』の腕章が輝いている。彼女はヴェイプが離れた射的の銃を掴んだ。 「ネーちゃんやるんやったらお金払ってや」 少女は無言のまま千円札をスピンドルに渡し、銃を構えた。 「撃ち落したのは、全部貰えるんだよね?」 「勿論や。それは保証するで。まあ落とせたらの話やけど」 そんな少女をヴェイプは期待の目を向けていた。銃を構えるその姿からは歴戦のスナイパーの空気が漂ってきているのである。 「ファイヤ」 そう呟いたあと、彼女の銃から放たれた弾は景品に当たった。それはまぐれではないようで、凄まじい速さで次々と弾を装填し、店にある全部の景品を一つも外すことなく撃ち落していく。 「おおおおお~~~~~!!」 スピンドルを除く四人は驚きと尊敬の声を上げる。スピンドルはもう完全に表情が固まってしまっている。 そして最後に残ったのは熊のぬいぐるみである。これを落とすのは物理的に不可能であると思われたが、その少女は熊のぬいぐるみの頭の先の同じ部分を連続で何発も撃ち、重心を揺らして落としてしまったのであった。なんという神業であろう。だが少女の表情は涼しく、当たり前のことをしただけだ、といった風である。 「さあ、その景品全て貰おうか」 スピンドルは「とほほ……」と呟いて景品を袋につめてその少女に渡す、すると少女はその景品をヴェイプに差し出した。 「……え? いいのお姉ちゃん」 「ああ、私はこんなの持って歩けないしね。あげるよ。それにこれも――」 そのまま少女はあの大きな熊のぬいぐるみもヴェイプに渡した。ヴェイプは嬉しそうにぎゅーっとぬいぐるみを抱きしめている。 「ありがとうお姉ちゃん!」 ヴェイプは天使のような満面の笑みを彼女に向けた。すると、少しきつい印象のする彼女の顔も緩くなり、ちょっとした笑顔をヴェイプに見せた。 「聖《ひじり》さーん。もう、こんなところにいたのね。駄目じゃない見回り中に遊んじゃ」 と、同じく風紀委員の腕章をつけたメガネの少女が彼女のところに駆け寄ってきた。 「おっと、見つけられたか。それじゃあね」 っと、少女はヴェイプの頭を撫で、メガネの少女と共にその場を去っていった。 「かっこいー……でもどこかで見たことあるような」 ヴェイプはそう呟いて彼女の姿が見えなくなるまでその方向を見ていた。対してスピンドルは景品を全部持っていかれて頭を抱えていた。そんなスピンドルを見てギガフレアはひひひとイヤらしく笑っている。 「おいおいどうしたスピンドル。今からどうするんだ?」 「ぐぬぬ。もう店仕舞いや。覚えておけ、この借りは必ず返してやるさかい!」 「借りって僕はなーんもしてないぞ。まったく今回は僕の一人勝ちだな」 「バーカバーカ! ギーのアホー!!」 「なんだとこのヒッピースタイルがああああ! バカって言うほうがバカなんだこの超バカ!」 「なんやて、この超ウルトラバカ!」 「超ウルトラデラックスバカ!」 「超ウルトラデラックスギャラクシーバカ!」 二人の罵り合いを見てレイダーマンとジェットは呆れかえっていた。 「低レベルすぎる……」 『争いは同じレベルの間でしか起きない』という先人のありがたーいお言葉を思い出し、彼ら二人は同時に溜息をつく。 言い合って満足したのか、スピンドルは店を畳んで去っていってしまった。 「ふん。やはり僕の店が一番だな」 「そうは言うがまだ客一人も来て無いじゃん。このままだと少なくとも千三百円稼いだスピンドルが一位だぞ」 ジェットは得意がっているギガフレアに現実をぶつけた。確かにまだ彼のゲーム対戦の店には誰も来ていなかった。 「なあにこれからさ。一人でも挑戦者が現れれば僕の実力を見せつけられるからね。そうすればギャラリーも増えて挑戦者が増えるはずだ。お、ほれ見てみろ、鴨がネギしょってやってきたぞ」 そう言ってギガフレアが指差す方向から二人の男女がやってきた。 女の子のように可愛い顔をした少年と、髪を二つに結っていて豊満な胸をもつ少女であった。 「もう、ついてこないでよお兄ちゃん。私は伊万里ちゃんと一緒に廻るの!」 「そんなこと言うなよ弥生ぃ……。だいたい巣鴨さんは彼氏の斯波くんと一緒なんだろ、だったらいいじゃないか僕と展示とか見ようよ。ほら、この双葉神社百年の歴史とかいいじゃないか。面白そうだ」 「文化祭のクラス展示を本気で見る人なんていないよお兄ちゃん」 「なに、僕のクラスの『自家菜園のコツ』のレポート展示をディスったな!」 「地味! なにそのやっつけ。お兄ちゃんのクラスっていつもなんかやる気ないよね」 「しょうがないだろクラスメイト半分くらいしかいないんだから、出来ることも少ないんだよ。まったく、うちのクラス呪われてるのかなぁ」 などと会話しながら彼らはこの中庭をのんびりと歩いていた。二人の顔立ちはよく似ていて、兄妹ということがよくわかる。飛鳥《あすか》と弥生《やよい》の藤森《ふじもり》兄妹である。 ギガフレアはそんな二人に目をつけたようだ。 「知ってる顔かギガフレア?」 「僕が潜入している時に同じクラスだった藤森だ。隣にいるのは妹のようだな。糞、あんないい乳した妹がいるなんてどこのギャルゲーの主人公だ。恥掻かせてくれるわ!」 馬のマスクを揺らしながらギガフレアは彼ら二人の前に飛び出した。弥生が「きゃあ」っと声を上げて飛鳥にしがみつく。そんな様子を見てさらにギガフレアの嫉妬心は燃え上がっていた。 「そこのお兄さんゲーム対戦やってかないかい。一回五百円だよ~。もし僕に一勝でもするれば賞金一万円プレゼントするよ! 妹さんにかっこいいところ見せちゃいなよ!」 ギガフレアは声色を変え客引きを始めた。全然キャラが違うため、少しの間一緒だったはずの飛鳥も彼が死んだはずのクラスメイトだとは気づいていないようであった。 「へーゲームか。僕も小さい頃明日人《あすと》とよくやったな~」 飛鳥はギガフレアの口上に乗って店を見渡した。そこには懐かしいゲームソフトがたくさん置いてある。ノスタルジーに浸るには十分なほどであろう。 「もうお兄ちゃん。ゲームなんかいいでしょ。先行くよ」 「待ってよ弥生。お兄ちゃんの勇姿を見てよ! 僕が勝って賞金もらったら弥生に色々買ってあげるからさ!」 飛鳥は懇願するように弥生を見つめた。弥生は「はあ……」と溜息をついて、 「じゃあちょっとだけだよ」 と、そう言った。苦労の絶えなさそうな妹である。許可が出たため、飛鳥はお金を払い、対戦席に座ってギガフレアと相対する。馬のマスクを被っているのを不審に思ったが、文化祭ではこのようなお調子者は沢山見かけるので特に何も言わなかった。 「おおー。本当に客入れしちゃったぞギガフレア」 「ゲームのこととなるとテンション上がるからなあいつ」 「ギーちゃんがんばれー!」 観戦モードの三人は遠目でギガフレアと飛鳥の対決を見入っていた。飛鳥はまじまじと年季の入った旧式のゲーム機を見ている。 「ねえ、なんのゲームで対戦するんだい」 飛鳥はわくわくしながらレトロゲーの山を見つめている。ギガフレアは黙ってそこから一本のカセットを取り出した。 それはマイナーだがなかなかの良作の対戦型格闘ゲームである。中国拳法をテーマにし、ゆったりとした動きが特徴的なゲームだ。一人プレイ用ではRPGの要素もあり、きっとマイナーゲーム好きなら楽しめるものであろう。……これだけの説明でゲーム名がわかった人はすごい。 「ああこれやったことあるなぁ。懐かしい」 「ふふふ、では勝負をしよう」 ギガフレアはカセット下の部分をふーっと息で吹き、ホコリを散らす。こうすることで古くなって電源のつきにくいカセットは息を吹き返すのだ。 こうして二人はゲームを開始した。だが、そのゲームはやはりスロウリィで、絵的にすさまじく地味なので描写を割愛。ともあれギガフレアはゲームが別に得意ではない飛鳥をハメ技で蹂躙しまくっていた。それはもう見ているほうが引くほどにギガフレアはムキになっていたのだ。 「ふははははは! 僕の勝ちだ!!」 飛鳥の持ちキャラの|HP《ヒットポイント》がゼロになり、飛鳥は当然の如く敗北する。 「そ、そんな……」 がっくりと肩を落とし飛鳥は落ち込んだ。弥生は呆れたように大げさに溜息をつく。 「もう満足したでしょお兄ちゃん。さあ私は行くからね!」 弥生はその場を立ち去ろうとしたが、飛鳥は懇願するように彼女の腕を掴んだ。 「頼む弥生! お金貸してくれ!! 次こそ勝つから!!」 弥生はその言葉に心底うんざりしたが、飛鳥の美しくも濡れた瞳に見つめられると何も言えなくなってしまう。綺麗な顔立ちで駄目男という母性本能をくすぐる彼のようなタイプは確実に女性を不幸にするだろう。だが、犠牲になる女性は絶えないのだ。いやほんとイケメンとか滅びれば良いのにね。 「もう、しょうがないなー。あと一回だけだよ。はい」 弥生はさっと飛鳥に五百円玉を渡した。すると飛鳥は「よーし! もう一勝負だ!」と声を張り上げてギガフレアにお金を払った。 それを見てジェットらは「ああ、ギガフレアの術中にはまっているな」と苦笑いになっていた。飛鳥ははりきってコントローラーを振り回すがやはりギガフレアが圧勝してしまう。その後も弥生にすがり、何度も戦ってはみたが全部惨敗であった。 「…………」 飛鳥は死んだ目でブラウン管を見つめていた。 いい加減可哀想になってくる。 「もうお兄ちゃんのライフはゼロよ! やめてあげて!!」 「くくくく、やはり僕に勝てる奴はいないな。ふははははははは!!」 ギガフレアは落ち込んでいる飛鳥を見て高笑いをしていた。ボロ儲けである。 「ねえもう無理だよお兄ちゃん。もう行こう」 「嘘だ……ありえない……。こんなに戦っているのに一度も勝てないなんて……」 弥生が話しかけるが、飛鳥の耳にはそれが届いていないようで、なにやらぶつぶつと独り言を呟いている。 その様子は実に不気味で、顔つきもなんだか無機質で無表情になっている。 「これは何か細工されているんじゃないか……だとするなら“ボク”が勝てないのも納得できる……」 「どうしたんだお前。何を言ってるんだ?」 ギガフレアが不審に思ってそう尋ねると、飛鳥は突然立ち上がりこう言った。 「キミはインチキをしている。だからボクが勝てないんだ! これは詐欺行為だ! キミこそが世界の歪み……成敗してくれる!!」 「ええー!?」 「お兄ちゃん!?」 とんでもない言いがかりにギガフレアが困惑していると、 「はいそこまで! 誰にでもクレームつけるんじゃありません!!」 という声が聞こえ、誰かが思い切り飛鳥の頭をひっぱ叩いた。 「………………はっ、僕は一体。って牧村さん!」 飛鳥が振り向くとそこには可愛らしい小柄な女生徒がいた。どうやら彼女が飛鳥の頭を叩いて正気に戻したようだ。 「もう、藤森くんってばいつもそうだよね。その癖治したほうがいいよ。本当」 「あ、牧村さんこんにちは。いつも兄がお世話になってます」 「弥生ちゃんこんにちは。大変だね、こんなお兄さんがいて」 少女ら二人はそう言って笑いあっていた。彼女は牧村優子《まきむらゆうこ》。飛鳥のクラスメイトの女の子だ。妹の弥生と同じようにいつも飛鳥の突飛な行動にいつも悩まされていた。同じ悩みの種を持つ者同士優子と弥生は結構気が合うようであった。 「ねえ弥生ちゃん。一緒に学校廻ろうか。アイス食べに行こうよ」 「あ、いいですね。行きましょう行きましょう!」 二人は談笑しながらその場から去っていってしまった。それを見て飛鳥は半泣き状態で追いかける。 「ま、待ってよ弥生~。牧村さーん」 「もう、ほら藤森くん。早く来ないと置いてっちゃうぞ~」 ギガフレアはぽかーんとしてコントローラーを握っていた。あんなに可愛い妹と女友達がいるのを見て、試合に勝って勝負に負けたとはこのことだろうと魂レベルで理解した。 「うう……」 「……ギガフレア。お前は今泣いていい!」 ジェットはぽんっと彼の肩に手を置いた。だが飛鳥のおかげでそれなりの稼ぎが出たのは事実で、ギガフレアのこの店は成功と言えた。 「よかったじゃないかギガ。あんな客一人で結構稼げて」 「……ふふふ。そうだな。ぼ、僕の大勝利に揺らぎはない。どんな相手がこようと僕は負けないぞ。そうだ、賞金を上げてやろう!」 「おいおいえらい景気がいいな」 「さっきの藤森のおかげで金が溜まったからな。これを使ってさらに賞金を上げればもっと客が食いつくだろう。我ながら完璧なアイデアだ!」 「グッドアイディア!」 そう言いながらギガフレアは『賞金一万円』の看板を倍の『賞金二万円』にマジックできゅきゅっと書き直した。 さっきの飛鳥との対戦を見ていたギャラリーはちらほらいて、賞金が跳ね上がったのを見て大いに騒いでいる。 「ふふん。いい調子じゃないか」 そんな中、男女二人組がこちらに近づいてきた。赤いマフラーをなびかせる中等部の男の子と、八重歯が特徴的な可愛らしい女の子であった。 「ねえハヤハヤ、あれ! あれ面白そうじゃん!!」 「ええー。あんな胡散臭いのやめようよ紫隠」 その二人は言わずと知れた醒徒会の書記、加賀杜隠《かがもりしおん》と庶務、早瀬速人《はやせはやと》である。クラスの出し物や醒徒会の仕事が一段落して適当に廻っているようだ。 「げっ……! あれは醒徒会の連中!!」 ギガフレアは身体を硬直させる。以前ギガフレアは醒徒会のメンバーにこっぴどくやられてしまったことがあった。その時は副会長と会計監査にやられたのだが、この二人も強敵だということを聖痕の資料に書かれていることを思い出した。もし自分が聖痕の殺し屋とばれてしまえば、またやられてしまうだろう。 ギガフレアは馬のマスクをきちんと被り、顔が絶対見えないように気をつけた。 「はいいらっしゃい。一対戦五百円です。僕に一度でも勝てば賞金二万円!」 「へーそりゃいいねー。にゃははは。おっと財布忘れちゃったよ~。はやはやお金貸して!」 「何度目だよ紫隠。俺の財布ももうからっけつだよ……」 「大丈夫だって、今勝って賞金貰うからそれですぐ返してあげるってば♪」 加賀杜は自身ありげにそう言い、対戦席に座った。早瀬は溜息をつき、ことのなりゆきを見守るしかなかった。 そしてギガフレアと加賀杜はコントローラーを握り、例の格闘ゲームのスイッチを入れた。 だが、その瞬間そこにいる全員が驚愕することになった。 「な、なんじゃこりゃああああああ!」 思わずギガフレアはそう叫んでしまう。彼はテレビ画面を食い入るように見つめている。そこに映し出されたのは単調な電子音を放つ陳腐なドット絵ではなく、ハードロック調の音楽が鳴り響く超美麗3Dグラフィックであった。 「な、なんだこのゲームは!」 全員同じ顔でシンプルなデザインのキャラクターだったはずが、ひどくかっこよくなったり、本来ならいない美少女キャラなどがそこには映し出されている。どう考えてもこのゲームソフトとゲーム機ではありえないクオリティである。 「にゃははは。なにこれーすごーいキレー」 加賀杜は大笑いしてその画面を見入っていた。馬のマスクで表情は見えないが、内心ギガフレアはかなり焦っている。恐らく馬のマスクを外せば滝のような汗がいっきに流れ出るであろう。 この在りえない事態は全て加賀杜の異能によるものである。彼女は触れたものの能力を増幅させることができる。そのため彼女がコントローラーを握った瞬間、ゲーム機とゲームソフトのスペックを極限まで増幅させてそれを可能にさせていたのであった。 「さあ始めよっか」 加賀杜はスタートを押して勝手にゲームを始めてしまう。ギガフレアは慌ててコントローラーを握りなおす。 「く、くそ。どうなってんだこりゃあ」 「お、おい頑張れよギガフレア! なんかすごい電気喰われるぞこれ!!」 ジェットはコンセントを鼻に刺したままギガフレアを励ます。なにやらおかしな事態になっているが、ジェットはギガフレアならば勝ってくれると信じていた。 だが、 「…………だめかもしんない」 そうギガフレアは呟いた。きっとマスクをつけていなければとんでもなく情けない表情の彼の顔が見れたことであろう。 そうしてゲームは戦闘を開始し、ギガフレアは何も出来ないまま一瞬にいて勝負がついてしまった。 当然画面上で倒れているキャラクターはギガフレアのものである。 「にゃははは。アタシの勝ちだー!」 「…………おい。お前ゲームは最強なんじゃなかったのか」 「…………3Dは酔う。気持ち悪い。操作の仕方がわからない。最近のゲームは難しいよ」 ギガフレアは魂の抜けたように淡々とそう言った。どうやら彼はレトロゲーなどしか 興味のないようで、この手の最新ゲームは一切理解できないようであった。それが敗因となり、加賀杜にあっさり負けてしまったようだ。 「じゃあ賞金は貰っていくね。んー、こんなんでこんなに貰っていいのかな」 そう言って加賀杜は満面の笑みで賞金二万円を掴んでいった。 「さあハヤハヤ! これでいっぱい遊ぶよ!」 「すげーや紫隠。これで豪遊できる――って先にお金返せよ!」 わいわいと騒ぎながら二人は去っていく。飛鳥の時の稼ぎを全部賞金に回していたため、結局ギガフレアは赤字となってしまった。ギガフレアは放心状態で机に突っ伏してしまった。どうやら泣いているらしい。 「結局、ギガも駄目だな」 と、レイダーマンは呆れながら言った。 「ぼくら全員駄目ですね。ああ、そういえばヴェイプのチョコバナナ屋はどうなってるんですか?」 ジェットはヴェイプの店に目を向ける。 どうやらようやくチョコが溶けきったようで、今からバナナにぶっかける段階のようだ。これから店を開店させるらしい。 「なにのんびりやってんだよヴェイプ。遊んでるから遅くなるんだぞ」 ヴェイプはニコニコとバナナにチョコをかけたりトッピングしたりして急がしそうである。 「えへへへ。大丈夫だよぉ。今からたくさん稼ぐからー」 「チョコバナナ屋ねえ。確かに定番だが、俺のフランス料理に客が来ないのにそんなところに客が寄るかな」 「いや、レイダーさん。あなたの店よりは全然マシでしょう。ともあれ、このままじゃさっきのスピンドルが一位になってしまいますからね」 ジェットとレイダーマンがそう言っているうちに、店の準備は出来たようで、早速チョコバナナを買いに一人の男子生徒が立ち寄った。 「すいませーん。一本下さい」 「はーい。一本千円になりまーす」 ヴェイプは笑顔でそう言った。その異常価格に男子生徒は言葉を無くし、ジェットもレイダーマンもぽかーんとしていた。 「え……? 千円って、これ普通のチョコバナナだよね」 男子生徒が困惑しながらそう尋ねると、 「そう、これは普通のチョコバナナだよ。でもここはチョコバナナを売る店じゃないの」 そう言ってヴェイプはおもむろにチョコバナナを舐め出した。 それにはまたもみんな驚愕した。客ではなく、自分がチョコバナナを食べるというのは一体どういう店なんだろうか。 ヴェイプはチョコバナナを舌でちろちろと舐め、下の部分から舐め上げていく。 「……ちゅぱちゅぱ……んっ……すごい、大きい……お口に入りきらないよぅ」 時折口に含んだり、上下に動かしたり、上目遣いにしたりと――これ以上はラノオンリーになるので以下略。 それを見た男子生徒は前かがみになりながら黙って千円を払っていった。それを見ていた近くの男子生徒たち我先にとそのヴェイプの店に押し寄せ、行列が出来ていく。 「チョコバナナのほかにも、もう千円払えばカルピスのオプションもつくよ♪ みんないっぱい注文していってね」 と眩しいくらいの笑顔を彼らに向けていた。末恐ろしい幼女である。 「っていうかこれいいのか! 風紀委員ー! 早くきてくれー! 未成年の性が乱れていますよー!」 ジェットの叫び声は虚しく空に響き、ヴェイプのチョコバナナ屋が売り上げ一位を獲得したのでありましたとさ。 おわりんこ トップに戻る 作品保管庫に戻る
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元が縦書きなのでラノをおすすめします pat.1をラノで読む あと感想、批評をスレに書き込んでくれるとありがたいです(今巻き込み食らって返事返せないですが) FILE.3〈キャスパー・ウィスパー侵略:part.1〉 ※ 夜遅く、ひっそりと静まり返る醒徒会室で、青いサングラスをした長身の男が考え込むようにソファに腰をかけていた。 彼の名はエヌR・ルール。 ルールは双葉学園における黒歴史、オメガサークルの前身である兵器開発局が生み出した異能の力を持った人造人間だ。今まで魂を持たない人形しか生み出せなかった兵器開発局が何万体という失敗作の上に唯一造り上げることができた存在であり、魂を持つ者にしか許されない異能の力も彼は保有していた。 違法なる科学の遺物。 哀れなる運命の落とし児。 彼は先日に出会った放火魔のことを考えていた。 世界を憎むような目で、異能の炎をもってして街を燃やし尽くそうとした少年、最後には自分自身を焼き尽くして死んだ彼のことを思い返していた。 (彼は一体何者だったんだろか。それに“彼女”とは何のことだ。それに先日起きた合同実習での生徒の暴走事件、一体この学園に何が迫っているのだ) 風紀委員である逢洲等華が巻き込まれた二年と一年の合同実習で起きた事件。それはある生徒たちが突然彼女と二名の一年を攻撃したことである。 その攻撃をしかけた生徒たちは逢洲に倒され、捕らえられたが、彼らが目を覚ました時に話を聞いてみたが、彼らは何も覚えていないらしい。 (逢洲が言うにはその生徒は操られていたようだ、と言っていたが、もしそんな危険な洗脳能力者がこの学園に身を潜めているとなると早々に手を打たないと大変なことになるかもしれない) 彼はこの放火事件と洗脳事件に何か同じものを感じていた。 (もっと共通点はないのだろうか。この二つの事件は根底が同じような気がしてならない。街を焼き尽くせるほどの能力者と、人を操るほどの能力者。この二人が何かの組織に所属しているとなると、底が知れないな) 彼はこの二つの事件の資料に目を通す。 そこに二人の人物が共通していることに気づいた。 (一年Z組の転校生と“アウト・フラッグス”の巣鴨伊万里か。偶然なのだろうか) ※ ――頭が痛い。 双葉学園の寮の一室でオフビートはベッドに寝転がりながら頭を抑えて呻いていた。 小柄で可愛らしい顔をしているが、今はこめかみに血管を浮かせ、眉間に皺をよせている。 オフビートは違法科学機関オメガサークルに派遣された工作員で、今この学校の中では斯波涼一という偽名で生活をしていた。 彼に与えられた任務はとある少女の監視と護衛。 オメガサークルがなぜ彼女を特別視しているのか彼にはわからない。 同じく敵対組織であるラルヴァ信仰団体“スティグマ”がなぜ彼女の命を狙っているのかも知らない。 知らないことだらけだ――オフビートは頭の痛みと同じくらいに自分の存在意義に対して頭を抱えていた。 彼には七歳以前の記憶がない。 オメガサークルの開発と処置という名の“改造”により彼はそれまでの記憶を一切消されていた。本当の名前も生い立ちも何もかも根こそぎ奪われた。 それゆえにオフビートの世界はオメガサークルが全てだったのだ。 任務の中でしか彼の居場所はなく、ただ自分を造りあげた組織に対する服従が彼の生きる意味だった。そこに今までは疑問をもたなかった。 しかしこの任務で彼は外の世界に触れ、そして彼女に出会った。 巣鴨伊万里。 あの笑顔の似合う赤毛の少女との出会いが彼の価値観をぶれさせていた。 (わからない。俺は一体なんで彼女のことを任務と関係なく護りたいと思ってるんだろうか。これが“好き”ってことなのか。お笑いだな、俺みたいな組織のモルモットが人と恋愛だなんて) 彼が天井を見上げながらぼんやりとしていると部屋のドアを誰かがノックした。 まだ転校して数日しか経っていないので、彼の部屋を訪ねる人物は限られていた。オフビートの返事を待つことも無くノックの主はドアをためらいも無く開けた。 「グッモーニン。具合はどうなの涼一君」 そこに立っていたのはオフビートのお目付け役であるアンダンテであった。寝起きなのか長い髪を頭に纏めているが、伊達であるにも関わらずメガネだけははずしていない。 「なんのようだアンダンテ。つかなんだその格好」 部屋に入ってきたアンダンテは年に似合わずなにやら可愛らしいパジャマを着ていた。裾や袖にフリルがついており、柄にはファンシーな動物の絵が描かれていた。パジャマが小さいのか、彼女の豊満な身体が収まりきれていないようで、割とピチピチである。 「木津先生と呼びなさいって言ってるでしょ。それに私が何着ようと勝手でしょ。それともこういう服は十代までしか着ちゃいけない法律でもあるのかしら」 「別にいいけど、直視できねーよ」 「あら、そんな憎まれ口聞いていいのかしら。ようやく機関の研究所から薬を取り寄せてあげたのに」 アンダンテはパジャマのポケットからアンプルを取り出した。 「ようやく来たか。早く注射してくれよ。頭が痛くてしょうがねえんだよ」 「慌てないの。ほら、身体の力抜いて」 この薬は別に怪しいものではない。いや、オメガサークルの薬というだけで怪しいというには十分かもしれないが、害になるようなものではない。これは能力を酷使して疲弊した脳に対する安定剤のようなもので、ギガフレアと青山という能力者と連日戦ったためにオフビートの身体は限界まできていた。オメガサークルの改造人間である彼は常人よりも傷の直りが早いが、それでも脳と精神に異常な負担がかかっていた。 オメガサークルの改造により無理矢理能力の底上げがされているために、オフビートは自分の能力の負荷に身体が耐え切れないのである。 普通に使っている分には大丈夫だが、連日の戦いのように能力の限界まで酷使すれば当然ながら過負荷がかかるのだ。 「さあ、動かないでね。ちくっとするわよ」 動けないオフビートをいいことにアンダンテはオフビートの上に馬乗りになった。 「うわ重てえ!」 「重たい言うな! さあ早くお注射しちゃいましょうねー。ああ、なんだか久しぶりでドキドキしちゃう。これぞ科学者の醍醐味よね。動けないモルモットを研究の名のもとに蹂躙するのがたまらなく興奮するわ」 「目がこええよ! 何を興奮してるんだ、落ち着いてやってくれよ!」 アンダンテはハァハァと荒い息使いで彼に迫り、その首もとに注射器を刺しこんだ。 わりと針が太いため、激痛が走るが、過負荷による脳の痛みよりは耐えられるものだった。オフビートの頭の痛みは嘘のように引いていく。その薬がすぐに脳に回っていくのがわかる。 「ふぅ、これで落ち着いたか」 「確かに痛みは引いたでしょうけど、しばらくは能力の使用を出来るだけひかえることね。少しは身体を休めなければ駄目よ。勿論、あなたの命より任務を優先すべきだけど」 「へっ、相変わらず厳しいね」 「それに、任務だけじゃなくてあなたも彼女を護りたいでしょ? 命に代えても。いいわねえ青春ってやつね」 「なんだよ、俺と伊万里のこと知ってたのかよ」 オフビートはアンダンテから目を逸らす。任務以上の関係を監視対象と結ぶなんて工作員としてはあるまじき行為である。その後ろめたさがオフビートにはあった。 「私はあなたのことをなんでも知っているのよ涼一君」 アンダンテは馬乗りの体勢のままオフビートの顔に自分の顔を近づけた。あと少しで唇と唇が触れるような距離である。 「別にいいのよ、あの子の監視と保護のためには恋人というのが一番やり易い関係だものね。でも、本気になっちゃ駄目よ」 アンダンテはオフビートの目を覗き込むように語っている。そこにるのは双葉学園の教師、斯波涼一の従姉である木津曜子ではなくオメガサークルの研究員兼工作員の“アンダンテ”である。 「もし、機関があの子の監視の結果で“処理”することが決まったら、あなたはどうするのかしらね。あの子をちゃんと殺せるの? それともあなたは私たち機関に“反逆”するのかしら? “反逆”できるのかしら? あなたの居場所は機関にしかないのに。あなたを受け入れる世界なんてこの世にはどこにもないのに」 オフビートはそんなアンダンテの気迫に押されていた。 「わかってるよ・・・・・・」 彼が呟くようにそう言うと、アンダンテは一瞬で笑顔になる。 「よろしい。聞き分けのよい子ちゃんにはご褒美のキスをあげよう」 アンダンテはそのままオフビートにキスしようとしたがオフビートは慌てて彼女の顔を押し上げる。 「やめろっつーの! 欲求不満なのかよあんた!」 「しょうがないじゃない、研究に魂捧げてても女という呪縛からは逃れられないのよ。それにあなた結構可愛い顔してるのよねぇ」 オフビートとアンダンテがベッドの上でそんなことをしていると、突然部屋のドアが開けられた。 「斯波君おはよう。頭痛治った? まだ調子悪いなら今日の約束は――」 と、ノックもせずにこの部屋に入ってきたのは話題のオフビートの恋人である伊万里だった。オフビートとアンダンテは同時に「あっ」と間抜けな声を発してしまった。 ベッドの上で妙な体勢でくっついている二人を見て伊万里は青ざめていた。 「もう、バカ! 信じられない、不潔よ!」 双葉学園の都市部で伊万里とオフビートは二人で歩いていた。 今日は日曜のため学校は休日で、二人は都市部にある巨大デパート“ラウンドパーク”に買い物にやってきた。ある意味これはデートと言うべきものであろう。 ラウンドパークはほぼなんでも揃っているため、双葉学園都市に住む人々の生活の基盤にもなっている。日曜ということもあり、今日は学生たちで溢れかえっている。 初デートに気合を入れているのか、伊万里は普段よりもめかしこんでいる。小さなリボンの付いたワンピースに、綺麗なガラのチェックのスカート。チャームポイントの赤毛もいつも以上に手入れがなされていた。対照的にオフビートはTシャツにジーンズといういかにも適当な服装である。 「だから誤解だって。薬打ってもらってただけだよ」 「本当かしら、あんな格好で? しかも従姉弟同士で、しかも教師と生徒なのに! 一体いつから双葉学園は淫徳の教室になったのよ!」 初めてのデートだというのに女教師といちゃいちゃしていたオフビートに伊万里はぷりぷりと怒っていた。そんな彼女を困ったようにオフビートは呆けている。 「あんまり怒るなって。ほら、アイスショップがあるぞ、奢ってやるから機嫌直せよ。何味がいいんだ?」 「何よ、そんなアイスで釣られるほど私は安い女じゃないわ! ・・・・・・ペパーミントアイス」 デパートの一角にあるアイスショップでオフビートは自分用のチョコチップと伊万里のためにペパーミントのアイスを買ってきた。行列が出来ていたため、少し時間がかかってしまったが、食い意地の張った伊万里は根気よく待っていた。 二人はベンチに腰掛けて、大人しくアイスを舐めている。 伊万里は自分の隣でアイスを黙々と食べている少年を横目で見ていた。 (なんとなく斯波君とこんな関係になっちゃったけど、まだ『付き合ってください』とか『好きです』とか言ってないのよねお互い。本当に恋人同士なのか自信ないなぁ) ふはぁっと溜息をつきながらアイスにかぶりついた。ここのアイスはなかなか人気で、昼過ぎには完売してしまうらしい。爽やかなミントの風味が口いっぱいに広がっていく。 伊万里は自分の気持ちを考えてみる。 彼とはまだ会って数日間しか経っていない、だが恋愛というものに時間は無意味だ。し かし彼女自身もまだ本当にオフビートのことを好きなのかどうか判断に困っていた。 死線を一緒に潜り抜けたための錯覚ではないか、などとも考えてしまう。 (私は斯波君のどこが好きなんだろう。それに、本当に斯波君は私のこと好きなのかな) 自分の気持ちも相手の気持ちもわからないなんて、それで本当に恋人同士と言えるのか、そんなことは恋愛経験がいままでなかった彼女にはわからない。 (そんな細かいこと今考えてもしょうがない、か。うん、今は斯波君とのデートを楽しもう) 伊万里は、よし、と言いながら勢いよく立ち上がった。 「ねえ斯波君。私これから水着買いたからつきあってくれるかしら」 「はぁ? 水着? 今まだ五月だぞ」 「なんで嫌そうな顔するのよ、水着の試着イベントなんて男子にとってご褒美でしょ!」 「いや、お前のその平坦な身体見ても何も嬉しくな――」 言いかけるオフビートの顔に鉄拳が入る。伊万里が思い切りぶん殴ったのである。 「誰が人間ドラム缶よ。悪かったわね、どうせ木津先生みたいなあんな巨乳がいいんでしょこの変態!」 「変態というかむしろ健全な男子はツルペタに欲情しないぜ」 「ツルペタ言うな!」 またも二人が騒いでいると、伊万里のアイスがぽろっとコーンからこぼれて、伊万里のスカートの上にぼとりと落ちてしまった。 「あ~~~~~~~!!」 「あーあ」 伊万里はお気に入りのスカートが汚れてしまって泣きそうになっていた。チェックのスカートに緑色のペパーミントアイスが染み込んでしまう。 (もう最悪! せっかく今日のために可愛いの選んできたのに・・・・・・) 伊万里が自分の不運に呆然としていると、何を思ったかオフビートは自分のシャツをびりっと破いた。伊万里は一瞬彼が何をしているか理解できなかったが、 「ほれ、拭いてやるから大人しくしてろよ」 と言われて、吃驚していた。彼女のアイスを拭くために自分の服を破いたのだ。 「ちょ、ちょっと!」 「動くなっての」 オフビートは破いた服で出来た簡易性ハンカチで伊万里のスカートを拭いている。ある意味きわどい所に手を置いているため、伊万里はドキドキしながら顔を真っ赤にしていた。オフビートはそんな伊万里の様子を気にすることもなく黙々と拭いていた。 「も・・・・・・もういいわよ斯波君」 「遠慮するなよ。スカートの中は濡れてないか? 大丈夫か?」 と、オフビートはピラッとなんの悪気もなくスカート軽くめくった。 「なんだお前その年でリボン付きなんて穿いてるのか。しかもピンク。ガキっぽいなぁ」 「・・・・・・・・・・・・」 「木津先生は紐つきとか穿いてたな。まぁ俺は別にこんな布切れに興味ないけど」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね――――――――!!」 伊万里はそのまま足を振り上げてオフビートの顎を蹴り上げた。 時を同じくしてラウンドパークのフードコートで、一人の美しい少女がコーヒーを飲んでいた。安物のコーヒーであるにも関わらず、飲む仕草には気品さえ感じられる。 その少女はまるで人形のように美しく、長く艶やかな黒髪に、真っ黒なドレスを着込んでいた。いわゆるゴスロリと呼ばれる服装ではあるが、あまりに似合っているためにこの場に浮いてるとは言えない。むしろ間違っているのはこの場の風景ではないかと思わせるほどの美しさを兼ね備えている。 少女の名は西野園ノゾミ。 彼女は自身を“キャスパー・ウィスパー”と呼んでいる。 そんな彼女の懐からトロイメライの音楽が流れてきた。携帯電話の着信音である。ノゾミは電話を取り出して、耳にあてた。 「首尾はどうなの?」 ノゾミは挨拶もせずにそう尋ねた。その声は冷ややかで、その見た目とは反するように冷酷な印象を持たせる。だが、どこか逆らいがたい迫力があった。 「そう・・・・・・そう・・・・・・じゃあそのまま待機してなさい。状況が整ったらまた連絡するわ。他の連中にも伝えておきなさい」 そう言い終わると、ノゾミは相手の返事もまたずに電話を切ってしまった。 ノゾミが再びコーヒーを口につけようとした所である人物がノゾミの目の前の席に腰を下ろした。 「あら、貴方が学園都市にくるなんて珍しいわね“クローリング・カオス”」 “クローリング・カオス”と呼ばれたその人物は、特に印象のない、いや、あまりに印象が無いために、逆にそれが特徴と言えるほどの、まるで顔が無いと錯覚しそうな雰囲気を持つ青年だった。年は二十代過ぎといったところであろうが、それより下か上とも言われても納得できそうである。 「不用意にその名で呼ぶのは止めていただきたい」 「いいじゃない。どうせ誰も話なんて聞いてないわ。ここにいる人間たちは他人に関心が無いのよ。誰も彼もみんな自分だけが可愛い、気持ちの悪い連中よ」 「ふん、彼らもお前みたいな魔女にそんなことは言われたくないだろうな」 「そうね、でもそんな彼らだから私の能力に簡単にかかるのね。意志の弱い人間に生きている意味なんてあるのかしら」 「あまり自分の能力を過信しすぎない方がいい。相手は仮にもギガフレアを倒した死の巫女なんだからな」 「わかってるわよクローリング・カオス。きっちりいつも通り私なりの回りくどい、安全で臆病な方法でやらせてもらうわ」 「ふん、期待しているぞ。この戦いは我々“スティグマ”にとっての聖戦なのだからな」 「まったく仕事の話もいいけど貴方も何か頼みなさいよ。たまにはパフェなんか――」 一瞬メニューに目を向けた瞬間、もう目の前の席には彼はいなかった。まるで最初からいなかったかのように消えてしまったかのようだった。 「忙しいわね。慌しい男はもてないわよ」 ノゾミは誰に語りかけるでもなく独り言のようにそう呟いた。 「いてて・・・・・・そういえば今日、弥生はどうしたんだ」 蹴られた顎を押さえながらオフビートと伊万里は破れた服と汚れたスカートを新調するためにカジュアル服コーナーに足を運ばせていた。 「弥生は今日他の友達と約束があるっていって出かけちゃったよ」 「へぇ、あいつお前以外にも友達いたのか」 藤森弥生は伊万里の親友である。 不器用で人見知りをするタイプの弥生は同性の友達もあまりいないはずだった。 「そうね、私以外に友達がいるって聞いたことないわ。もしかしたら私たちに気を使ってくれてたのかもね」 伊万里は服を姿見で合わせながらそう答えた。どうやらスカートだけではなくほかの服にも興味がいっているみたいだ。こうしていると実に普通の可愛らしい女の子である。 「でもあの子最近変なのよ」 「変? 弥生がか?」 「うん。なんだかぼーっとしてて・・・・・・まぁそれはいつものことって言えばそうなんだけど。でも何かが変なのよ。いつも明るいあの子なのに、最近はなんだか元気が無いというか、あんまり私とも話してないし」 「なんだ寂しいのか。いいじゃないか。弥生だっていつまでもお前に依存してるわけにもいかねえだろ」 「まあ、私も弥生が独り立ちできるなら嬉しいわよ。弥生ももっとクラスに溶け込んだほうがいいもの。でも、やっぱり何かが違うのよ。何かが決定的に変っちゃったって感じ」 伊万里は少し真剣な顔でそういった。それは親友を心配する表情でもあった。弥生は幼い頃からの親友であるため、彼女にとってはかけがえの無いモノの一つである。 「もしかしたらこないだの合同実習のことを引きずってるのかしらね。あの子逢洲先輩にすぐにやられちゃったし。よく考えるとあの日から弥生の様子がおかしい気がするわ」 「それで落ち込んでるのかな。じゃあ今度俺らで励ます会でもやろうか」 「あら、いいねそれ。斯波君にしては気が利くじゃない」 二人はそんな談笑しながら服を買っていた。なぜかオフビートは伊万里の服を奢らされていた。そもそもオフビートの資金源はオメガサークルから流されてくる物で、オフビート自身はお金に固執をしていなかった。 「ねえ斯波君。このデパートの屋上にある観覧車は見た?」 「ああ、見たってかイヤでも目に入ったぞ。なんで一デパートにあんな観覧車があるんだよ」 デパートであるはずのラウンドパークの屋上になぜか設置されている小型の観覧車。 それは初めにデパートが建設されたときはそれが目玉の一つで、それを目当てに学生のカップルたちが押し寄せたものだが、それから数年経った今では日に二、三組が使用すればいいくらいになっていた。 「ねえ、あの観覧車乗ろうよ」 「はぁ? あんなん乗ったら笑いもんだぞ」 「いいじゃない、だって今日は私たちの――」 伊万里は言葉をそこで途切れさせてしまった。『だって今日は私たちの初デートじゃない』そう続けようとしたのだが、デートというのを意識してどうにも恥ずかしくなってしまったようだ。伊万里としても初めてのデートなのだから、何か思い出が欲しかったのだろう。その結果が観覧車なんてあまりにベタ、あまりに乙女すぎて自分でもキャラじゃないな、と伊万里は思っていた。そんな伊万里の思いを、オフビートは知ってか知らずか、 「まぁいいや、乗ってみようぜ。俺も今までああいうのに乗ったこと無かったし、いい機会だ。誰かに笑われてもお前と一緒ならそれも悪くない」 そう言ってもじもじとスカートの裾をいじってる伊万里の手をとって屋上に向かった。 「目標が移動したわ。B班は作戦Fの場所に移動しなさい」 ノゾミは目の前のカップルが移動するのを見て、誰かに電話をしていた。 その目には先程のコーヒーを飲んでいた少女の面影はなかった。その目に宿っているのは明確な殺意。触れるもの全てを深淵に飲込むようなそんな暗く、おぞましい雰囲気がその瞳にあった。 ノゾミの隣にはさっきまでいなかったのに、もう一人少女が立っていた。その少女は髪を二つに結っている可愛いらしい少女であった。 しかしその少女の目には光はなく、どこを見ているのかわからない。そこには意識があるのかすら疑わしい。 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「さあ、行きましょう弥生さん」 こうして恐るべき魔女キャスパー・ウィスパーとオフビートとの死闘の火蓋が気って落されたのである。 「小型っても近くで見ると案外迫力あるな」 オフビートと伊万里は屋上に上がり、目の前の観覧車を呆然と見ていた。屋上にはちょっとした出店と、百円コインで動く動物の乗り物などが置いてあった。数人の客がいるくらいで、がらんとした空間が広がってる。 「私も今までは外からしか見たことなかったから、乗るの初めてなのよね」 伊万里は自分の手を握っているオフビートの手の温もりを感じていて、少し顔を紅潮させていた。 今までこうして男の子とデートしたり手を繋いだりといったことを彼女はしたことがなかった。そんな自分が出会って数日しか経っていない少年とこうして付き合っているということが未だに実感できなかった。 しかしある意味憧れである彼氏との観覧車デートということで、伊万里の気分は高まっていた。 「ね、ねえ。早く乗ろうよ!」 「慌てるなっての。別に観覧車は逃げないだろ」 二人はやる気のなさそうな観覧車の従業員にお金を渡して、乗せてもらおうとした、しかしその時伊万里に妙なものが見えたのである。 「あ・・・・・・。斯波君、頭に・・・・・・」 それは旗だった。伊万里にはオフビートの頭に旗が見えた。 それは伊万里の異能である“アウト・フラッグス”によって見ることが出来る死を予言する旗であった。その旗が頭に現れた人間には、すぐ近くに死が迫っているのである。 その伊万里の異能を知っているオフビートは伊万里のその言葉に顔を青ざめる。 「おい、まさか・・・・・・。ちっ!」 オフビートはばっとあたりを見回した。すると、どこからか伸びている赤い光が彼の眉間のあたりに当たっていた。 「し、斯波君?」 「伊万里、お前はこの中にいろ!」 そう言ってオフビートは伊万里を突き飛ばして無理矢理観覧車の個室に押し込めた。従業員が「ちょ、お客さん!」と言うのを気にせず自分で鍵をかけた。 「いいか、窓から顔を出さずにずっと伏せていろ。わかったな」 「ま、まってよ斯波君! あなたはどうするのよ!!」 「俺は、この死の脅威を叩く」 オフビートはすぐその場を駆け出した。 やがて観覧車が動き始め、回っていく。まるでこれから動きだす運命を暗示するかのように。 オフビートを狙っている赤い光。 それは彼が実戦演習で何度も見たことがあるものである。それは射撃の照準。撃ち出されるは鋼鉄の弾丸。その赤い光の元を見ると、そこはこのデパートの隣に建っている廃ビルの屋上である。 視力が秀でているオフビートにはそこに狙撃中を構える男がはっきりと見えた。 (こんな街中であんなもん使うんじゃねえっての!) その銃を構えた男は何の迷いもなくオフビートに向かって引き金を引いた。銃声が響いたが、それは思ったよりも小さく、小さな爆竹が一瞬爆ぜるような音で、あたりの人間はそれに誰一人気づいてはいなかった。 それに感づいたオフビートは銃の照準ラインに右掌を構えた。 高速で発射された弾丸がオフビートの掌を吹き飛ばす、はずであったが、逆にその弾丸がオフビートの掌に弾かれてしまった。 そのオフビートの掌は僅かに光っている。 これがオフビートの異能、絶対防御の“オフビート・スタッカート”である。両掌に高周波のシールドを展開させ、その手に触れるものは全て遮断される。 連続で発射される弾丸を何度も弾きながらオフビートは向かいのビルに向かって駆け出した。このデパートと向こうのビルまでには十メートルほどの幅があるが、オフビートは助走をつけたまま屋上のふちから跳躍をした。 普通ならばそこからジャンプして届くはずがないのだが、改造により身体機能をいじられている彼にはその程度は問題ではなかった。 廃ビルの屋上に着地を成功させたオフビートはその着地の衝撃を和らげるためごろごろと転がっている。そうして体勢を整えてる隙に、銃を持った男はその場から逃げ出した。その男をよく見ると、まだ若い、いや、少年と呼べる年代である。それどころか双葉学園の制服を着ているため、間違いなく学園の生徒だとオフビートは確信した。 「待て、逃げるんじゃねえ!」 オフビートもすかさず追いかける。男子生徒は屋上から下階に続く階段を駆け下りている。その後を追っていくが、男子生徒はすぐ下の階の一室に入っていった。 この廃ビルは廃ビルだけあってあたりは散らかり、まったく手入れがなされていなかった。自分から袋小路に入っていった男子生徒をオフビートは、しめた、と思いながら追い詰めた。しかし、追い詰められたのは自分のほうだと気づいた時にはもう遅かった。 その部屋にはナイフを持った五名の少年たちが待ち構えていた。 (ちっ――罠か!) 彼らは一斉にオフビートに襲い掛かってきたが、オフビートは彼らの攻撃を異能の掌で次々と防いでいく。彼らがナイフで切りかかってこようが、オフビートの“オフビート・スタッカート”には一切通じない。彼らの動きはどうにも素人のようで、オフビートにとってその彼らの動きは止まって見えるのも同然である。しかし人数の差は大きく、オフビートの動きも段々鈍くなっていく。 オフビートは防御の合間に拳や蹴りを彼らに叩き込んでいくが、彼らはまるで痛みを感じていないゾンビであるかのように動じず攻撃の手を休めない。 (なんなんだこいつら、俺を殺す気でかかってきているのにまるで殺気を感じない。まるで機械を相手に戦っているみたいだ――) オフビートは彼らの光の無い瞳を見つめる。それは先日起きた合同実習の事件、青山と和泉たちと同じ目であった。 (なるほど、こいつらも操られているのか。青山やと和泉は動きが単調だったが、こいつらはどうにも精密な動きをしている、これはあの時と違って操ってる奴が近くにいるってことなのか――) オフビートの推理は的外れではなかった。意識の無い彼ら傀儡がここまで正確にオフビートに攻撃を仕掛けられるのは今このときすぐ隣のデパートから魔女キャスパー・ウィスパーが直に指令を出しているに他ならない。 魔女の存在をまだ知らぬオフビートにはまだ現在の状況を把握できなかった。 しかし一般人が敵に操られている以上むやみに殺したりは出来ない。そもそもオフビートの異能は攻撃に適してはいないし、武器も持ち合わせていなかった。 (だからといっていつまでも防御ばっかしてても無意味か) 後ろに回った敵の一人が彼に向かってナイフを突き刺そうとしてきたのをオフビートはまたも掌でそのナイフを受け止める。 しかしその時彼の頭に激痛が走った。痛みで思わず身体がぐらりと揺れる。 (ぐっ――。これは、まさかこんなときに!) オフビートはアンダンテの言葉を思い返していた。 彼は連日の戦いで脳と精神が疲弊しているのである。まだ能力が本調子でないために、またこの脳の痛みがぶり返してしまったようだ。 オフビートは激痛に耐えながら彼ら傀儡と対峙する。オフビートの調子に構わず彼ら傀儡はオフビートに襲い掛かってくる。 「ぐっ、しつけーんだよ!」 またもナイフによる突きを右掌で受け止めようとしたとき、オフビートの右手にも激痛が走った。それは絶対防御の両手をもつオフビートが今まで味わったことのない痛みである。 ナイフがオフビートの掌に突き刺ささり、貫いたのだ。 (そんな――馬鹿な!) 手には血が滲み、驚きと痛みでオフビートが一瞬怯んで腰を屈めると、傀儡の一人が思い切りオフビートの顔を蹴り上げた。ただでさえ痛みがある頭を揺すられて、オフビートの意識は飛びそうになっていた。鼻からも血を流し、なんとかその場に足をふんばることに成功した。 (そうか、一時的に能力が使えなくなってるのか・・・・・まずいな) 絶対防御の能力が使用できない以上、改造人間のオフビートと言えどナイフで突かれれば刺さるし、銃で撃たれれば死ぬだろう。まさしく絶体絶命。身体中の痛みで意識もいつ途切れるかわからない。そして、その時が最後になる。 傀儡たちはオフビートの動きがよろめいてきたので、一気に畳みかけようとナイフを構えている。そして連中は息を合わせて一斉に飛び掛ってきた。 オフビートは避けようと身体を動かそうとするが、上手く身体が言うことをきかない。もはや大人しく串刺しにされるしかなかった。 (畜生、こんなところで死ぬのか俺は――伊万里!) オフビートは死を覚悟して目を瞑ったが、いつまで経っても連中は攻撃を仕掛けてこなかった。オフビートが恐る恐る目を開けると、傀儡たちは呻きながら床に突っ伏していた。彼には何が起こったのか理解できなかった。 その倒れている人たちの中で、小さな人影だけが、悠然と立っていた。 それは小柄で可愛らしい少女であった。小さな体躯であるにも関わらず、彼女が纏う空気には威風堂々たるつわもの雰囲気があった。 その少女はカチューシャにリボンをつけていて、タンクトップのシャツにハーフパンツといったラフな格好であった。子供っぽい印象を受ける八重歯がよく似合っている。 オフビートはその少女に見覚えがあった。 そこに救世主のごとく存在するその少女は、最強の七人と呼ばれる醒徒会の書記係、オフビートの同級生でもある加賀杜紫穏であった。 「加賀杜・・・・・・紫穏。なんでここに」 「にゃははは満身創痍だね斯波っち。まあ細かいことは気にせず、とりあえずこの状況を脱却しようよ」 口含んだ飴玉をコロコロと転がしながら、そう不適に笑う加賀杜の手には黒いネズミのぬいぐるみが握られていた。このデパートのゲームセンターで取ってきたと思われるもので、片方の手に握られている紙袋にはいっぱいぬいぐるみが入っていた。それ以外には何も手にしてはおらず、武器らしいものは何ももっていない。 (武器も持たずにどうやってこの連中を・・・・・・) そう思っていたが、傀儡たちは完全に気を失っていたわけではないらしく、またもゾンビのように立ち上がってきた。それを見た加賀杜は、 「しっつこいなー。そんな男の子は嫌われるよ」 そう言って紙袋からもう一体ぬいぐるみを取り出した。それは黄色い熊ぬいぐるみで、加賀杜は両手に一体ずつぬいぐるみを握り締めた。 「じゃじゃーん。二刀流! なんつってね」 何の冗談か、加賀杜はぬいぐるみを構えて傀儡攻撃の備えている。 (無茶だ、あんなぬいぐるみで連中を――) オフビートの心配は杞憂でしかなかった。 それはまるで現実とは思えぬほどのシュールな光景である。ぬいぐるみを手にもつ少女が、五人のナイフを持った暴漢たちを次々と薙ぎ倒していくのであった。ナイフを突きさしてきても、ぬいぐるみの柔らかなボディに吸収されるが、ぬいぐるみが傀儡たちの身体に当たると、轟音を立てて彼らは吹き飛んでいくのである。 (そうか、これが彼女の能力か・・・・・・なんて恐ろしいんだ) 彼女の能力は手に触れたもの威力を最大限に底上げする能力である。彼女が手にしたものはたとえ綿で出来たぬいぐるみであろうと恐るべき鈍器へと変貌を遂げる。 「にゃは。どう? 驚いた斯波っち? この能力を研究者は“効果付属”なんて呼んでるんだけど、あんまりアタシは戦いとか好きじゃないんだよね~。でもこういうとこに居合わせたらやるっきゃないっしょ」 そんな軽口を言いながらも次々と傀儡を気絶させていく。しかしその加賀杜の攻撃から逃れて、オフビートの元に傀儡の一人が駆け寄ってきた。加賀杜に危険を感じて、殺しやすいオフビートへと標的を戻したのだ。距離があるため、加賀杜もそっちの対応には間に合わないであろう、素早くナイフをふり上げ、オフビートに切りかかろうとした瞬間、ナイフが音を立てて折れてしまった。 折れたナイフとともに、飴玉がコロコロと一緒に床に落ちた。それはさっきまで加賀杜が舐めていた飴玉である。傀儡が呆然としている隙に、その傀儡もまたぬいぐるみで殴り倒してしまった。 「まさか・・・・・・」 「そのまさかだよ斯波っち。ふふん」 加賀杜は得意げに口を尖らせてた。恐ろしいことに彼女があのナイフにしたことは“ただ飴玉を口から飛ばした”それだけに過ぎない。ただそれだけでナイフを折るほどの脅威をあの飴玉に宿らせていた。 (なんなんだこの規格外の能力は・・・・・・。もし彼女が軍用兵器などを手にしたら一体どうなんるんだ・・・・・・それこそ世界の脅威になりえるほどの能力じゃないか・・・・・・) 加賀杜は手から血を流しているオフビートの手を握り締めた。 「あっ、なにを・・・・・・」 「動かない方がいいよー。痛そうだねぇ、でも大丈夫。アタシが触れれば人の持つ治癒能力も促進できるんだ。まぁ、それほど効果はないんだけどこの程度なら出血止めるくらいは出来るよ」 オフビートの顔から苦痛が消える。傷は完全に塞がりはしないが、どうやら痛みと出血は引いていったようだ。 「それで、斯波っち。色々と説明して欲しいんだけどいいかな」 「・・・・・・・・・・・・」 「言いたくない、か。まあわかるけどさ。アタシもエヌルン――うちの会計監査なんだけど、そいつに頼まれなきゃキミの尾行なんてしなかったよ。趣味じゃないし」 「尾行?」 「うん、まあただデートしてるだけだったからアタシも途中で尾行さぼってゲーセンで遊んでたんだけど、まさか見失ってるうちにこんなことになってるなんてねー」 まさか自分の“兄”のような存在であるエヌR・ルールに目をつけられているとは思いもしなかった。だがオフビートはまだ一連の出来事についていけなかった。 「ねえ斯波っち。キミは一体何者なんだい?」 加賀杜の言葉に、オフビートは言葉を詰まらせた。 「俺は、俺は自分が何なのかわからない」 「わからない?」 「俺には過去がない。今自分を縛っているのは他人に与えられた存在理由と居場所だけだ」 オフビートは呟くようにそう言った。 「過去がない、自分がわからない――か。そうだね。そういうのって怖いよね」 加賀杜は少し同情、いや、共感したような顔でオフビートを見つめている。加賀杜は優しく彼の手を握り締めている。 「私もこの学校に来るまでの記憶がね、一切ないんだ。でもそんなのどうだっていいじゃない」 「どうでもいいだなんてよく言えるな、俺は、俺は・・・・・・」 オフビートは吐き捨てるようにブツブツと言っている。しかし加賀杜はそれに腹を立てることもなくオフビートの顔を覗きこんだ。 「記憶がないからって自分がわからないなんてことはないよ。大事なことは“今”にあるんだから。キミが守りたいと思う大切な物は“今”にこそあるんじゃないの。少なくともアタシはそうだよ、醒徒会のみんな、学園のみんなを護ることに過去の自分なんて必要じゃないさね」 「大事なもの・・・・・・護る――あっ」 オフビートはぼんやりとした頭を一気に覚醒させる。彼が護るべき少女を思い出して、彼はふらつく身体に鞭を打って立ち上がった。 「ちょ、まだ立ち上がっちゃまずいって・・・・・斯波っち!」 加賀杜の制止を振り切り、オフビートはその場から駆け出した。 加賀杜は彼を追いかけようとしたが、その場に倒れている少年らを放っておくわけにもいかずに、オフビートを見送ってしまった。 「なんだかわかんないけど、青春だにゃー」 観覧車が一周し、伊万里は特に何も無くデパートの屋上に戻ってきた。 しかし死の旗が見えていたオフビートが戻ってきていないことに彼女は心配していた。 「だ、大丈夫かな斯波君。でも彼っていつも死の旗が逃れてきたし大丈夫なのかも・・・・・・」 などと根拠もないことを呟いたが、やはり心配であるには変わりないようで、顔は青ざめていた。 オフビートが戻ってこないのでどうしたものかと立ち尽くしていると、突然携帯電話が鳴り出した。着信元を確認して、伊万里はすぐに電話をとった。 「もしもし弥生? どうしたの電話なんて」 一瞬間があったが、すぐにいつものか細い弥生の声が聞こえてきた。 『伊万里ちゃん、あのね、斯波君がこっちで倒れているの』 「え? 本当? 場所は? うん、、わかった。すぐにそっちに向かうわ!」 伊万里はすぐにその場を駆け出して弥生の指定した場所に向かった。 これが魔女の罠だと知るわけもなく、伊万里は今まさに死地に向かっているとは露ほどにも思っていなかった。 part.2につづく トップに戻る 作品投稿場所に戻る